産学官連携のプロジェクトで開発した幼児用脳磁計を活用
金沢大学は12月7日、幼児用脳磁計を活用し、言語発達に遅れのある自閉スペクトラム症児の特異的な脳活動を捉えることに成功したと発表した。この研究は同大人間社会研究域学校教育系の吉村優子准教授、子どものこころの発達研究センター三邉義雄教授、菊知充教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
発達障害のなかでも自閉スペクトラム症(ASD)は、生後まもなくから症状が現れる神経発達障害で、他の発達障害との合併も多い。ASDは多様性が大きく、乳幼児期に言語発達に遅れがある子どももいれば、遅れのない子どももおり、言語発達の遅れの有無に関連する脳機能の違いについてはほとんど明らかにされていなかった。
今回の研究で用いた幼児用脳磁計(MEG)は、産学官連携のプロジェクトで開発したもの。超伝導センサー技術(SQUID磁束計)を用いて、脳の微弱磁場を頭皮上から体に全く害のない方法で計測、解析する装置だ。神経の電気的な活動を直接捉えることが可能であり、その高い時間分解能と高い空間分解能において優れているため、脳の機能やネットワークを評価する方法として期待されている。
言語発達に遅れのあるASD児、前頭葉の反応大きく
今回、研究グループは、3~5歳の定型発達の子ども46名と言語発達に遅れがあった自閉スペクトラム症児23名、遅れのなかった自閉スペクトラム症児24名を対象に、母子のコミュニケーションにおいてよく使われる日本語の音韻「ね」を用いて、平坦な言い方の「ね」と抑揚のある言い方「ねぇ」の2種類を聞いたときの脳活動を調べ、比較した。
その結果、言語発達に遅れのある自閉スペクトラム症児は、健常児や言葉の発達に遅れのない自閉スペクトラム症児に比べて、前頭葉の反応が大きいことを発見。側頭葉に関しては、自閉スペクトラム症児は言語獲得の遅れの有無にかかわらず聴覚野の活動が乏しいことを明らかにしたという。
今回用いた生理学的指標(ミスマッチネガティビティ)は、刺激に注意を向けていなくても捉えることができるため、注意のコントロールが難しい乳幼児に適しているという。言語発達に遅れが認められるメカニズムが解明されることで自閉スペクトラム症児の脳活動のメカニズムの解明や支援法、治療薬の開発などにつながることが期待される、と研究グループは述べている。
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