年間数千~万人が肝臓移植を待つ間に死亡
横浜市立大学は12月6日、iPS細胞からヒトのミニ肝臓(iPSC肝芽)を大量製造する手法の開発に成功したと発表した。この研究は、同大学学術院医学群臓器再生医学の武部貴則准教授、谷口英樹教授らの研究グループが、株式会社ヘリオス、株式会社クラレ、味の素株式会社、株式会社ニコン、カールツァイスマイクロスコピー株式会社との産学連携体制で行ったもの。研究成果は、「Cell Reports」に掲載されている。
現在、末期臓器不全症に対しては、臓器移植による臓器置換が有効な治療法として実施されている。しかし、年々増大する臓器移植のニーズに対してドナー臓器の供給は絶対的に不足しており、年間数千~万人が肝臓移植を待つ間に死亡する。したがって、臓器移植に代わる治療法として新たな再生医療技術を開発していくことは、多くの患者救済のために必要だ。
研究グループはこれまでに、ヒトiPS細胞を用いて異なった3種類の細胞から血管網を有した肝臓の原基(ミニ肝臓)を創出する画期的な基盤技術を確立してきた。しかし、同技術を用いた再生医療を実現するためには、すべての細胞材料をiPS細胞から調製する必要があること、大量のミニ肝臓の一期的製造を実現すること、高い品質・均質性を担保する手法を確立すること、肝疾患動物モデルを用いて高い治療有効性を実証することなどの課題克服が必要だった。
免疫不全マウスへの移植で、高い治療効果を示す
今回、研究グループは、iPS細胞からヒトのミニ肝臓を大量製造する手法の開発に成功。京都大学iPS細胞研究所・山中伸弥教授らの樹立した、日本人への免疫適合性の高いHLA型をもつHLAホモドナーiPS細胞(研究用)から、ミニ肝臓作製に必要な3種類の全ての細胞および小型化したミニ肝臓を、高い品質を担保して製造することが可能となった。
画像はリリースより
また、これらのミニ肝臓を免疫不全マウス体内へ移植した結果、移植後数日で血管化された肝組織を再構成し、ヒトアルブミン分泌や薬剤代謝機能などのヒト肝臓に特徴的な機能を発揮することを確認。さらに、亜急性肝不全をきたすモデルマウスへ大量のミニ肝臓を移植したところ、製造バッチにかかわらず高い精度で治療効果を示すことがわかったという。
現在、横浜市立大学ではiPS細胞由来のヒトミニ肝臓移植の安全性評価を目的とした臨床研究を目指して、iPS細胞を用いたヒト肝芽の大量製造工程の構築、GCTP(Good Cell and Tissue manufacturing Practice)プロトコールの作製、対象疾患のモデル動物の樹立などを推進中だとしている。
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