低侵襲で短時間の移植による軟骨再生治療が可能に
大阪大学は12月6日、これまで難治性で有効な治療法がなかった軟骨損傷に対する新規治療法を開発し、第3相臨床試験を開始したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科整形外科の中村憲正招聘教授(兼同大国際医工情報センター)、澤芳樹教授の研究グループによるもの。
関節軟骨は、血行に乏しく傷つくと治らない組織と考えられており、有効な治療法がないといわれてきた。世界中で幹細胞、組織工学的手法を用いた治療法の開発が進められているが、修復組織の質、移植先の母床との生物学的癒合を同時に向上させることが困難であるという課題があった。
画像はリリースより
研究グループは今回、通常の平面細胞培養と浮遊培養法を組み合わせることで間葉系幹細胞(MSC)が合成する細胞外マトリックスのみを利用して、分化能に富み、組織接着性の高い三次元人工組織を開発。これはMSCのアクチン細胞骨格の収縮能を利用して組織の自己収縮を誘導する技術を用いる世界初の組織化技術で、国内外の特許を獲得している。この技術の利用により、これまで困難であった低侵襲で短時間の移植による軟骨再生治療が可能となった。
ランダム化比較試験を膝関節軟骨損傷70例に
今回は、大動物を用いた前臨床研究、ヒトでの第1/2相臨床研究に引き続き、実用化への最終段階として第3相臨床研究、そして企業治験を進めるという。また、同治験は国内初の他家細胞培養を無血清培地(人工培地)で行う試みで、従来の自家移植に比べ、患者の受ける侵襲治療(手術)は1回で済み身体の負担が軽く、また製造コスト削減ができるメリットを持つ治療法の開発として期待される。
第3相臨床試験では、マイクロフラクチャー法とのランダム化比較試験を、膝関節軟骨損傷の70例を対象に行う。その第一症例の手術が11月29日に実施された。また今回、治療目的の他家細胞の保存を目的に、大阪大学未来医療センターに幹細胞バンクを設立した。将来の商業利用を可能とした幹細胞バンクの設立は、日本初だという。
今回開発された治療法が実用化すれば、世界で潜在人口3000万人といわれる変形性関節症の発症予防が期待される。また研究グループは、日本国内における他家細胞を用いた再生医療の扉を開くことが期待される、と述べている。
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