急性骨髄性白血病の約30%に認められるFLT3の活性型遺伝子変異
名古屋大学は12月5日、不可逆的結合型の新規FLT3阻害剤(FF-10101)が変異FLT3に対して高い選択性と強い阻害活性を示すことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科血液・腫瘍内科学の清井仁教授、早川文彦講師、石川裕一助教らの研究グループが、富士フイルム株式会社と国立病院機構名古屋医療センターの直江知樹院長と共同で行ったもの。研究成果は「BLOOD」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
急性骨髄性白血病(AML)の約30%の患者には、受容体型チロシンキナーゼ「FLT3」の活性型遺伝子変異が認められ、AMLの予後不良因子として知られている。FLT3の活性型遺伝子変異は、一部の領域が重複して繰り返されるinternal tandem duplication(ITD)遺伝子変異(FLT3-ITD変異)と、835番目のアミノ酸(D835)とD835周囲のアミノ酸における点突然変異、欠失、消失などの遺伝子変異(FLT3-TKD変異)の2種類がある。いずれの変異においてもFLT3は恒常的に活性化し、白血病細胞の増殖促進機構に関与している。
これまでに開発されているFLT3阻害剤は、FLT3-TKD変異に対する親和性の低下を誘導するなどの問題点が指摘されているため、より選択性が高く、耐性変異にも強い阻害活性を有する新たなFLT3阻害剤の開発が期待されている。
米国では第1相臨床試験が進行中
研究グループは、FLT3のATP結合ポケットのアミノ酸(C695)と共有結合を形成できるように設計された新規FLT3阻害剤FF-10101が、変異FLT3に対して高い選択性と強い阻害活性を有することを解明。FF-10101は、FLT3に含まれる特定のアミノ酸と不可逆的に強く結合をすることで、バックポケットを利用せずにFLT3に対する高い選択性と阻害活性を実現しているという。実際に、FF-10101は、これまでに知られている耐性変異を含む変異FLT3発現細胞に対して、優れた増殖抑制効果(50%増殖阻害濃度≦10nM)を示したという。
患者臨床検体を用いた検討では、FLT3遺伝子変異を有する複数の患者AML細胞に対して、FF-10101は選択的に増殖抑制効果を示し、また、患者AML細胞を免疫不全マウスに移植することによって樹立した白血病モデルマウスにおける検討では、FF-10101の経口投与によって、FLT3遺伝子変異を有する患者AML細胞に対して優れた治療効果を示したという。
これらの結果から、FF-10101は、従来のFLT3阻害剤の弱点を克服し、変異FLT3陽性AMLに対する治療薬として期待できることが明らかになった。現在、富士フイルムが、安全性と至適投与量を評価するための米国第1相臨床試験を進めており、同大では臨床試験と並行して、FF-10101の薬理学的特徴を明らかにし、FF-10101治療法の最適化に繋げていく予定としている。
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