過剰になると発がんを引き起こす「鉄」
岡山大学は11月30日、鉄キレート剤でがん細胞内の鉄を減らすと、幹細胞性が喪失することを世界で初めて発見したと発表した。この研究は、同大大学院医歯薬学総合研究科免疫病理学分野の大原利章助教と消化器外科学分野の二宮卓之助教らの研究チームが行ったもの。研究成果は、米がん治療科学誌「Oncotarget」のオンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
がんの腫瘍内にがん幹細胞が存在することが、がんの治療抵抗性を高め、治療を難しくしていると考えられている。しかし、腫瘍内でのがん幹細胞の割合が少ないことから、研究が難しく、これまでがん幹細胞に対する確立した治療法はなかった。
一方、鉄は生体にとっては必須の微量元素だが、生体内で過剰になりすぎると発がんが引き起こされることが知られている。研究チームは鉄に注目し、同大大学院自然科学研究科の妹尾教授が開発した「マウスiPS細胞由来のがん幹細胞モデル」を利用して研究を進めた。
造腫瘍性抑制を皮下腫瘍マウスで確認
研究チームは、がん幹細胞モデルのひとつである「miPS-LLCcm細胞」に対して、鉄キレート剤を投与すると増殖が抑制されるだけでなく、幹細胞マーカー(Nanog、Sox2、c-Myc、Oct3/4、Klf4)の発現が抑制されることを明らかにした。この効果は、現在、医療現場で広く使用されている抗がん剤(5-FU、CDDP)では認められず、鉄キレート剤特有のものと考えられるという。さらに、マウスの皮下腫瘍モデルを用いた実験でも、鉄キレート剤の投与により幹細胞性マーカーの発現が抑制され、造腫瘍性が抑制されることが確認されたとしている。
今回の研究成果は、鉄キレート剤によって腫瘍内に存在するがん幹細胞の幹細胞性を喪失できる可能性が示された。研究グループは、がんの治療抵抗性の解除や再発抑制に繋げられる可能性を示している、と述べている。
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・岡山大学 プレスリリース