うつ状態が非常に似ている双極性障害とうつ病
山口大学は11月30日、双極性障害の患者はうつ病の患者と比べて、感情や思考に深く関係する前頭葉の2つの部位が小さいことをMRIで撮影した脳の画像から明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科高次脳機能病態学講座の松尾幸治准教授、原田健一郎助教、山形弘隆講師、渡邉義文特命教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、英科学雑誌「Cerebral Cortex」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
双極性障害(躁うつ病)とうつ病は治療法が異なるにもかかわらず、うつ状態は非常に似ているため、診断を正しく判別することが診療上とても重要となる。そのため、客観的にこの2つの疾患を判別できる指標を探す研究が進められている。そのひとつとして、脳のMRI研究があるが、2つの疾患について直接比較した研究はわずかで、その違いは明らかになっていなかった。
今回、研究グループは、国内の大学および研究室から脳のMRI画像を多数収集。ボクセルベーストモルフォメトリー(VBM)とサポートベクターマシーン(SVM)という解析方法を用いて、双極性障害とうつ病患者のうつ状態の時における脳構造に違いがあるかを調べた。日本国内からは、北海道大学、国立精神神経研究センター、広島大学、山口大学から596人のうつ状態のうつ病患者、158人のうつ状態の双極性障害患者、777人の健常者が参加。米国からは、テキサス大学サンアントニオ校で43人のうつ状態のうつ病患者、36人のうつ状態の双極性障害患者、132人の健常者が参加したという。
左右の背外側前頭前皮質と前帯状皮質の体積が小さい
解析の結果、双極性障害群はうつ病群と比べ、左右の背外側前頭前皮質と前帯状皮質の体積が小さいことがVBMによって判明。また、健常群との比較では、双極性障害群およびうつ病群共に、右側の前帯状皮質と広い範囲の前頭皮質が小さいことが判明したという。
また、SVMでは、事前に選んだ脳のいくつかの部位は、双極性障害とうつ病を63.4%の正確さで判別することができ、背外側前頭前皮質と前帯状皮質が重要な部位であることが示されたという。同様に、双極性障害と健常は88.1%、うつ病と健常は75.9%で判別することができ、前帯状皮質と下前頭皮質は重要な部位であることが示された。さらに米国でも、VBMとSVMで日本の結果と似たような結果が得られたという。
今回の結果は、双極性障害とうつ病の脳の仕組みの違いを明らかにする助けとなり、さらに研究が発展すれば、頭部MRI検査で客観的な診断が可能となることが期待される。また、これらの部位をターゲットにした新たな治療法の開発のヒントになることも期待される、と研究グループは述べている。
▼関連リンク
・山口大学 ニュースリリース