これまでの研究ではマウスなど動物の細胞を使用
国立成育医療研究センターは11月29日、ヒトES細胞から視神経細胞を作製することに成功し、視神経細胞を用いて薬物の効果を判定する技術を世界で初めて開発したと発表した。この研究は、同センター病院の東範行眼科医長(研究所 視覚科学研究室長)の研究チームによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」で発表されている。
眼から脳へ視覚情報を伝達する視神経は、網膜に細胞体(網膜神経節細胞)があり、そこから長い神経線維(軸索)が伸びて、視神経管を通って脳に達する。これまで、ヒトの視神経細胞を純粋に培養することはできず、動物から単離培養しても神経線維(軸索)を温存することは不可能だった。
また、これまでの薬物研究では、ヒト細胞は中枢神経であるため採取できず、マウスなど動物の細胞を用いてきた。しかし、薬物に対する反応がしばしばヒトとは違うため、ヒトに有効な薬物の開発が円滑にできていなかったという。
多能性幹細胞の種類を超えて普遍的な技術であると確認
研究チームは、2015年にヒトiPS細胞から、2016年にはマウスiPS細胞およびES細胞から、培養皿の中で機能する軸索をもつ網膜神経節細胞の作製に世界で初めて成功。これによって、重篤な視力障害を起こすさまざまな視神経疾患に対して、疾患の原因解明、新規診断法の開発、再生医療、創薬など、新たな医療に関する研究を、ヒト細胞を用いて培養皿の中で行えるようになっていた。
画像はリリースより
そして今回、ヒトES細胞からも同様に、網膜神経節細胞を作製することに成功。これにより、この視神経細胞の作製法が、多能性幹細胞の種類を超えて、普遍的な技術であることが確認されたという。さらに、ヒト iPS細胞およびES細胞から作製した視神経細胞を用いて、神経栄養因子や神経抑制因子の効果を培養皿の中で判定する技術を、世界で初めて開発。神経の成長を亢進する神経栄養因子や成長を妨げる抑制因子を投与したところ、視神経細胞の発生や軸索に大きな変化がみられ、その変化は投与した化合物の濃度と相関していたという。
今回の研究成果によって、ヒト細胞を用いて神経系の薬物評価ができるようになり、創薬への道のりが大きく短縮されることが期待できる。特に、患者の細胞由来のiPS細胞を用いれば、疾患の特徴をもつ視神経細胞モデルを作製することができ、これに対して効果のある薬剤を開発することも可能になる。研究チームは「失明につながる視神経疾患に対して、新たな薬物を開発する道が大きく開けた」と述べている。
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・国立成育医療研究センター プレスリリース