アルツハイマー病治療薬としての開発は終了
大阪大学は11月28日、アルツハイマー病の治療薬として開発されたガンマセクレターゼ阻害薬の中に、C型肝炎ウイルス(HCV)の増殖に必須なシグナルペプチドペプチダーゼ(SPP)の活性を阻害する化合物が含まれていることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大微生物病研究所分子ウイルス分野の平野順紀大学院生、岡本徹助教、松浦善治教授らのグループによるもの。研究成果は、「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に公開されている。
画像はリリースより
HCVは、慢性肝炎、脂肪肝、肝線維化、肝がんといった慢性肝疾患の主要な原因ウイルス。これまでに研究グループは、HCV粒子を形成するコアタンパク質が、小胞体(ER)膜に局在するSPPというアスパラギン酸プロテアーゼによって切断されることが、粒子形成や病原性発現に重要だと明らかにしていた。SPPの酵素活性中心は、アルツハイマー病に関与するガンマセクレターゼと相同性が高く、その阻害剤の中にはSPPの活性を阻害するものがあることが知られていたが、その作用機序はわかっていなかった。
ガンマセクレターゼは、タンパク質複合体でアルツハイマー病の原因物質であるアミロイドベータを産生する。ガンマセクレターゼ阻害薬は、アルツハイマー病の治療薬として期待され、研究・開発が進められていた。今回、研究グループが着目したガンマセクレターゼ阻害剤は、一部は治験の第3相試験まで進んだが、アルツハイマー病の症状改善には効果がないことが判明し、アルツハイマー病治療薬としての開発は終了している。
マラリアやトキソプラズマ等の原虫感染症にも効果
今回の研究では、SPPの三次元立体構造を予測し、SPPの活性を阻害する化合物との相互作用を検討。その結果、SPPの223番目と258番目のアミノ酸が、阻害剤との相互作用に重要だということが明らかになった。また、SPP阻害剤は全ての遺伝子型のHCVに効果を示し、DAAと比べ薬剤耐性ウイルスが出現しないことも判明したという。さらに、マラリア由来のSPPもHCVのコアタンパク質を切断することから、SPPはマラリアやトキソプラズマ等の原虫にも存在し、SPP阻害剤は原虫感染症にも効果を示すことが明らかになったという。
ガンマセクレターゼは広範なタンパク質を切断するが、今回の研究成果によりSPPとの相互作用部位が明らかになったことで、SPPのみを切断するより抗ウイルス効果の高い化合物の開発が可能になった。また、マラリアやトキソプラズマ由来のSPPも切断することから、SPP標的とした創薬開発は、C型肝炎だけでなく抗原虫薬としても期待される、と研究グループは述べている。
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