直接観察が困難だった胎生期の細胞分化過程の観察に成功
慶應義塾大学は11月28日、生まれつき感覚器の障害をもつCHARGE症候群の症状が、胎生期の神経堤細胞の遊走障害が要因となって障害が現れることを、患者由来ヒト多能性幹細胞(iPS細胞)を用いた疾患モデルにより解明したと発表した。この研究は、同大医学部生理学教室の岡野栄之教授、奥野博庸助教らを中心とする研究グループによるもの。研究成果は、オープンアクセス誌「eLife」に掲載されている。
CHARGE症候群は、生まれつき目や耳などの感覚器や心臓に異常をきたす疾患。これらの症状が現れる器官は、胎生期に神経堤細胞によって形成される。CHARGE症候群では、CHD7という遺伝子がうまく働かず病気になることが知られているが、CHD7が神経堤細胞にどのような影響を与えているかは、解明されていなかった。
胎生期に症状が作られる遺伝性疾患は、その過程の観察が困難であり、詳細に病態を解明することが課題となっていた。そこで研究グループは、iPS細胞の技術を用いて、皮膚細胞からiPS細胞を、さらにiPS細胞から神経堤細胞を作製することにより、直接的に観察することが困難であった胎生期の細胞分化の過程を観察することに成功したという。
動きが遅くなる原因となる遺伝子群も
今回、研究グループは、CHARGE症候群患者由来の細胞と健常者群由来の細胞とで、詳細な比較検討を実施。CHARGE症候群患者由来の神経堤細胞には、健常者群由来細胞と比べて特徴的な違いがあり、特に細胞の動く速度が遅いことが、多角的に解析することで明らかになったという。また、遺伝子解析により、神経堤細胞において動きが遅くなる原因となる遺伝子群も見出したとしている。
今回の研究成果により、CHARGE症候群において、出生時にすでに形成された障害の修復は難しくても、将来的に機能を回復するアプローチが可能な病態を見つけ出せれば、治療へと結びつけることが期待できるという。他にも、このモデルを応用して、神経堤細胞の障害により生じるさまざまな先天的な病気のメカニズムを同様に調べることができ、胎児神経堤への影響をみる新規薬剤の毒性試験の一部としても有用。さらに、このモデルはヒトが形作られる過程において、神経堤細胞がどのような役割を果たしているかを知るのに有用なツールにもなり得ると予想される、と研究グループは述べている。
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・慶應義塾大学 プレスリリース