25日に都内で開催されたグローバルヘルス合同大会で、日本渡航医学会学術集会の濱田篤郎会長(東京医科大学病院渡航者医療センター)が明らかにした。渡航医学は1980年代から普及し、欧米では海外渡航者がトラベルクリニックで健康指導や予防接種、予防内服を受け、帰国後に発熱や下痢の検査で受診することが定着しているが、日本では認知度が低いのが現状。国内のトラベルクリニックは100施設程度となっている。
ただ、濱田氏らが東京国際空港の出国前ラウンジで行った調査では、ワクチン接種を受けていた人はわずか5%にとどまったが、医薬品を携帯していた人は80%近くに上ることが分かった。
濱田氏は「海外旅行に行くため、薬局にOTC薬を買いに行く環境はある」と指摘。「まず旅行前に薬局へ行くことを促し、日本の渡航医学の拠点とする仕組みが有効ではないか」との構想を披露し、薬局と連携して渡航者の健康指導を進めていきたい考えを示した。
地域の身近な薬局薬剤師が、渡航地の感染症流行情報を提供したり、携帯するOTC薬を販売し、必要に応じてトラベルクリニックを紹介して専門的指導や予防接種につなげる。こうした「トラベルファーマシー」を拠点とし、トラベルクリニックに紹介する流れを作ることで渡航医学の普及を進めていきたい考えだ。
同学会では、渡航医学の専門的知識を持つ認定医療者制度を行っており、濱田氏は「渡航医学会の認定薬剤師が海外渡航中の健康情報を提供できれば、他の薬局との差別化につながり、収益にも貢献するのではないか」と提言した。
■薬剤師による予防接種‐カナダの取り組み紹介
また、カナダのドラッグストアチェーン「ロンドンドラッグス」に勤務する佐藤厚氏は、カナダにおける薬剤師の渡航医学への取り組みを紹介した。カナダのブリティッシュコロンビア州では、09年から薬局薬剤師がワクチンの予防接種を行うようになり、2016年には人口が最も多いオンタリオ州で薬剤師が様々なトラベラーズワクチンを接種できるようになったことを紹介した。現在、トラベルクリニックを標榜する薬局は増加傾向にあり、ビジネスとしても脚光を浴びているという。
佐藤氏は、ロンドンドラッグスでの取り組みの中で旅行時の健康指導が最も大きな比重を占めるとし、州によっては薬剤師がマラリアや旅行者下痢症の薬を処方でき、処方できない州でもOTC薬などを揃えたトラベルキットを販売していることを紹介。予防接種ではA型肝炎のワクチン接種が多いとした。
その上で、日本の薬局薬剤師による予防接種の展望に言及。「海外では20年以上のエビデンスがあり、安全性や費用対効果の面でも薬局で予防接種をする方がはるかに効率的」と強調。特に日本の薬剤師はインフルエンザワクチンの知識が豊富だとして、「学会を通して働きかけ、将来的に他国と同様に予防接種ができればいいのではないか」との考えを示した。