3日間が限度だったマウス精子の冷蔵保存期間
熊本大学は11月24日、マウス精子の受精機能を10日間維持する冷蔵保存技術の開発に成功したと発表した。この研究は、同大生命資源研究・支援センター資源開発分野の吉本英高大学院生(博士課程3年)、同分野の中潟直己教授、竹尾透講師らの研究グループによるもの。研究成果は「Biology of Reproduction」に掲載されている。
世界中の研究所や大学では、薬の安全性を確かめたり、病気の原因を調べたりするために遺伝子改変マウスが用いられている。遺伝子改変マウスの輸送は、生きたマウスを専用の容器で輸送するのが一般的だが、輸送中のストレスによりマウスが死んでしまうことやアクシデントにより野外へ逃げ出してしまうなどのリスクがある。
研究グループは、遺伝子改変マウスの生体輸送に替わる輸送方法として、「精子の冷蔵輸送法」の研究を進めてきた。しかし、マウス精子を冷蔵保存できる期間は3日間が限度であり、それ以降は精子の受精能力が低下してしまうことが課題だった。
ケルセチンとジメチルスルホキシドを保存液に添加
今回、研究グループは、精子の低温耐性を向上させる保存液の開発を目指し、寒冷植物に多く含有され抗酸化作用のあるケルセチンと、凍結保護物質として汎用されるジメチルスルホキシド(DMSO)を保存液に添加することを試みた。
その結果、ケルセチンとDMSOは、冷蔵保存した精子の運動能力を飛躍的に向上させ、その受精能力を10日維持可能にした。さらに、体外受精によって得られた受精卵からは、正常なマウスの子どもが生まれた。また、ケルセチンとDMSOを処理した精子の機能を詳しく調べたところ、ミトコンドリアの活性が上昇。蛍光顕微鏡で精子を観察した結果、ケルセチンが精子中片部に蓄積していることがわかったという。
今回の研究により、世界中の主要な研究機関に対して、安全かつ容易に遺伝子改変マウスを輸送することが可能になることで、国際共同研究を加速し医学・生命科学研究の発展に寄与することが期待できる、と研究グループは述べている。
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・熊本大学 プレスリリース