タンパク質変性に伴う不安定性などから実用化されていない人工膵臓
東京医科歯科大学は11月21日、世界初のエレクトロニクスフリーかつタンパク質フリーなアプローチによる人工膵臓デバイスを開発し、糖尿病モデルマウスでの医学的機能実証に成功したと発表した。この研究は、同大生体材料工学研究所バイオエレクトロニクス分野の松元亮准教授と宮原裕二教授、名古屋大学の菅波孝祥教授と田中都助教らの研究グループによるもの。研究成果は「Science Advances」に掲載されている。
画像はリリースより
近年、糖尿病に対するインスリン治療でインスリンポンプの普及が進んでいるが、患者に及ぼす身体的・心理的負担や機械特有の補正・メンテナンスの必要性、医療経済上の問題など多くの課題がある。このため、機械や電気駆動を必要としない、自律型のインスリンポンプである「人工膵臓」の創出が求められている。
従来、グルコースオキシダーゼやレクチン等のタンパク質を基材とする人工膵臓創出の試みがなされてきた。しかし生体由来材料の限界として、タンパク質変性に伴う不安定性や毒性が不可避であり、実用化には至っていない。
1型および2型糖尿病マウスで糖代謝を3週間以上制御
研究グループは、タンパク質を一切使用しない、完全合成材料のみによるアプローチを考案した。グルコースと可逆的に結合するボロン酸を高分子ゲルに化学的に組み込み、これを1本のカテーテルに搭載。このことで、皮下挿入が容易で、人工膵臓機能を発揮する自律型のインスリン供給デバイスの開発に成功したという。
実際に、同デバイスを健常および糖尿病モデルマウスの皮下に留置することで「クローズド・ループ型」のインスリン供給を達成した。連続的な血糖値検知と血糖値変動に応答した拡散制御からなるフィードバック機構によりインスリン供給が調整される。インスリン欠乏状態の1型糖尿病およびインスリン抵抗性状態の2型糖尿病のいずれの病態でも、同デバイスが3週間以上の持続性を持って、糖代謝を良好に制御することを実証したという。
今回の研究成果により、糖尿病における低血糖の回避、血糖値スパイクの改善などアンメットメディカルニーズの解決に加え、機械型と比べて極めて安価かつ使用負担が軽減されることになるため、今後臨床応用へ向けた開発的研究が期待される、と研究グループは述べている。
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・東京医科歯科大学 プレスリリース