若年者には有効な可能性との先行報告も
慶應義塾大学は11月22日、バイオレットライトが成人の強度近視患者の近視進行(眼軸長伸長)を抑制する可能性を発見したと発表した。この研究は、同大医学部眼科学教室の坪田一男教授、根岸一乃教授、栗原俊英特任准教授、鳥居秀成助教らによるもの。研究成果は「Scientific Report」電子ジャーナル版に掲載された。
画像はリリースより
強度近視は日本において、失明原因の第4番目に挙げられており、失明リスクが非常に高いことが知られている。しかし、成人の強度近視患者に対し、現在、近視進行抑制の有効な眼軸長伸長の抑制方法は見つかっていない。
一方、研究グループはこれまでに、波長360~400nmの可視光であるバイオレットライトが若年者(13~18歳時)の眼軸長伸長抑制に有効である可能性を報告していた。
分光透過率以外、有意な差を認めず
今回、研究グループは、強度近視に対して行う屈折矯正手術のひとつである有水晶体眼内レンズ術後の長期間にわたる近視の進行を検討し、2つのレンズの種類による違いがあるかどうかを調べた。使用したレンズはそれぞれ「ARTISAN(R)(Ophtec BV,Groningen,Netherlands)」、「ARTIFLEX(R)(Ophtec BV)」。2つのレンズは、ともに虹彩支持型の有水晶体眼内レンズだった。
今回の研究では、バイオレットライトをほとんど透過しないARTISANを挿入した群(AS群)11例11眼と、バイオレットライトを透過するARTIFLEXを挿入した群(AF群)15例15眼を研究対象とした。研究グループは、成人強度近視患者に対し屈折矯正手術である有水晶体眼内レンズ挿入術を行い、手術後5年間の近視の進行をこの2種類のレンズ群間で比較した。その結果、2種類のレンズ群間で術後5年間の眼軸長伸長量に有意差が認められたという。
その違いを高次収差や残余乱視、有水晶体眼内レンズの分光透過率、モデル眼を用いた軸外収差シミュレーションなど多方面から比較検討したところ、有水晶体眼内レンズの分光透過率以外は有意な差を認めず、バイオレットライトの透過率の違いが今回の結果の差を生み出している可能性が示唆されたという。
今回の研究成果により、バイオレットライトは若年者だけでなく、成人の強度近視患者の眼軸長伸長も抑制し、失明予防の一端を担うことが期待される。研究グループは、バイオレットライトによる近視進行抑制効果をさらに追究し、産学連携で製品開発も同時に行っていくとともに、将来的には異常な眼軸長伸長を止められるような治療法の開発へと結びつけていきたい、と述べている。
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・慶應義塾大学 プレスリリース