血管平滑筋が過剰に収縮し、心筋が虚血状態になる冠攣縮性狭心症
東北大学は11月21日、「スイッチタンパク質」Rhoキナーゼの活性が冠攣縮性狭心症患者の長期的な予後を予測するバイオマーカーであることを世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科循環器内科学分野の下川宏明教授、高橋潤講師、二瓶太郎医師らの研究グループによるもの。研究成果は、欧州心臓病学会(ESC)の学会誌「European Heart Journal」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
冠攣縮性狭心症は、冠動脈を構成する血管平滑筋が一過性に過剰に収縮することで、心筋が虚血状態になり胸痛等の症状が現れる疾患。研究グループはこれまでの基礎的・臨床的研究から、血管平滑筋の収縮を促進するスイッチタンパク質であるRhoキナーゼの活性化が、冠攣縮の発生機序において極めて重要な役割を果たしていることを報告しており、末梢血白血球のRhoキナーゼ活性が冠攣縮性狭心症患者の診断や疾患の評価に有用なバイオマーカーとなることも明らかにした。
一方、冠攣縮性狭心症患者の治療後の予後に関する研究は、主に1980年代から日本や欧米で行われており、さまざまな予後因子が挙げられてきた。日本では、冠攣縮研究会が実施した多施設共同研究から、院外心停止の既往、喫煙、安静時狭心症などの複数の予後因子が同定されている。しかし、冠攣縮性狭心症患者の長期的な予後を予測するバイオマーカーは未だ確立されていなかった。
JCSAリスクスコアにRhoキナーゼ活性の測定結果を組み合わせ
研究グループは、東北大学病院循環器内科において、アセチルコリンを用いた冠攣縮誘発試験に基づいて冠攣縮性狭心症を確定診断した後、患者の末梢血白血球中のRhoキナーゼ活性を測定し、長期予後との関連を検討。2011年12月から2014年5月までの間に174名が冠攣縮性狭心症と診断、末梢血白血球のRhoキナーゼ活性が測定され、その後の経過が観察された。
診察時の検査では、冠攣縮性狭心症患者のRhoキナーゼ活性は、冠攣縮性狭心症でない患者と比較して有意に高いことが判明。また、Rhoキナーゼ活性が高い値を示した患者群では、低い値を示した患者群や冠攣縮性狭心症でない患者群と比較して、冠攣縮発作による不安定狭心症や心臓死がより多く発生していた。さらに、冠攣縮性狭心症の指標となるJCSAリスクスコアに、末梢血白血球Rhoキナーゼ活性の測定結果を組み合わせることで、冠攣縮性狭心症患者の予後をさらに明確に判別できることを見出したという。
研究グループは今回の研究成果について、新たな長期予後のバイオマーカーの発見によって、診断時点で長期予後不良患者を選別することが可能となり、ハイリスク患者や難治性患者における治療戦略の改善につながることが期待される、と述べている。
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・東北大学 プレスリリース