一般的な再灌流療法のみでの治療が困難な冠動脈拡張例
国立循環器病研究センターは11月21日、冠動脈拡張症を有する急性心筋梗塞症症例に対する適切なワルファリン使用が、予後改善に有効である可能性を示したと発表した。この研究は、同センター心臓血管内科部門の土井貴仁医師らの研究チームによるもの。研究成果は、米国心臓病協会の医学誌「Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology」に掲載されている。
画像はリリースより
一般的に急性心筋梗塞は、動脈硬化などで狭くなった冠動脈が血栓により閉塞・血流途絶することで発症する。超急性期の治療法としては、血栓を取り除き、血管の狭窄部分を広げた上でステントを血管内に留置して血流を再開させるカテーテル治療(再灌流療法)が多く選択される。一方、冠動脈の異常拡張を呈する冠動脈拡張症でも急性心筋梗塞を発症し、冠動脈内の血流停滞により血栓が形成されて、冠動脈閉塞をきたすと考えられている。このような症例では、通常の心筋梗塞と比較して血栓の量が多く、すでに血管が拡張した状態であることからステントが血管壁に接着しないため、一般的な再灌流療法のみでの治療は困難だ。
TTR≧60%の症例、主要心イベント発生率が有意に低率
研究チームは、2001~2013年までに急性心筋梗塞を発症した1,698名を対象に、冠動脈拡張例(51名)と冠動脈非拡張例(1,647名)に分けて、それぞれの経過を分析。その結果、冠動脈拡張例で有意にカテーテル成功率は低く、死亡、非致死性心筋梗塞の主要心イベントの発生は高率だった。次に、冠動脈拡張例で抗凝固薬のワルファリン内服量が適切であった例(8例)と適切でなかった例(43例)を比較。適切であった例で主要心イベント発生率は有意に低率だったという。
なお、ワルファリンによる抗凝固療法の質の評価は、Time in therapeutic range(TTR)≧60%を「ワルファリンを適切に投与した群」、TTR<60%を「ワルファリン量が適切でない群」とした。また、TTRはワルファリン投与期間中にその効果指標である血液検査PT-INRが目標値領域内(1.6~2.6)にあった時間的割合を算出したという(Rosendaal法)。
急性心筋梗塞では血栓の生成を防ぐため抗血小板薬の使用がガイドラインで推奨されている。血流が停滞しやすい冠動脈拡張例では、ワルファリンの追加内服も検討されるが、抗血小板薬との併用による出血リスクを懸念し、医師の判断で処方を控えるケースもあったという。
研究チームは今回、抗凝固薬の適切な使用による予後改善の可能性が示唆されたことから、ガイドラインの策定に寄与できると期待されるとし、今後さらに多くの症例を検証し、治療法の確立を目指すとしている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース