■無菌性保ち7日以内再利用
注射用抗癌剤のリツキシマブとベバシズマブの2薬剤について単回使用バイアルの複数回使用(DVO)を導入した結果、6カ月で約1000万円の薬剤費を削減できることが、愛媛大学病院薬剤部などの研究で明らかになった。閉鎖式接続器具(CSTD)を活用してバイアル内の無菌性も検討し、1週間以内のバイアル使い回しで外部汚染がなかったことも証明した。高額な免疫チェックポイント阻害剤等、他の抗癌剤にもCSTDを用いたDVOを導入することにより、薬剤費の削減に寄与できるとしている。
高額な注射用抗癌剤の残液が廃棄され、医療費のムダになっていると注目を集めている中、バイアル内の残液を廃棄せずに複数回使用するDVOの取り組みが広がっている。ただ、抗癌剤が残ったバイアルを別の患者に複数回使用するDVOの導入には、バイアル内の無菌性と安定性を確保する必要があるものの、細菌汚染の影響は明らかになっていないのが現状。
こうした状況を受け、同院薬剤部は、使用頻度の高い抗癌剤のリツキシマブ、ベバシズマブの残液について、CSTDを活用して複数回、複数日に使用した場合にバイアル内の無菌性が保たれているかを検討するため、検査部と協力して培地培養を実施した。さらに、2015年度に調製したリツキシマブとベバシズマブの使用バイアルを調べ、DVOの導入を仮定して導入前後の薬剤費を検証した。
バイアル内の無菌性をめぐっては、CSTDを装着しないコントロール群、CSTDを装着したテスト群のバイアルにそれぞれブドウ糖液を注入し、封をした上で1日目、4日目、9日目にシリンジに装着した針から採取。検査部で培地にコロニーが形成されるか検査を行い細菌汚染の状況を調べた。
その結果、コントロール群、テスト群で共に菌の発生は認められず、バイアル内は9日間無菌性が保たれていることが考えられた。CSTDを装着していないコントロール群でも菌は発生していなかったが、同院薬剤部は「厳密な無菌調製により、外部汚染がなかった」との見方を示している。
さらに、同院外来化学療法室で15年7月から12月に投与されたリツキシマブ、ベバシズマブの処方量と使用バイアル数を調べ、DVOの導入を仮定して使用額を算出。無菌性は1週間程度維持されると仮定し、バイアルの使用を開始して7日以内のバイアルを使い回すことにした。
その結果、リツキシマブの調製に用いたバイアル数と薬剤費は、500mg規格を132バイアルで2822万3580円、100mg規格を112バイアルで488万7792円、合計3311万1372円となったのに対し、DVO導入時に使うと考えられるバイアル数と薬剤費は、500mg規格を134バイアルで2865万1210円と、DVOの導入で446万0162円の薬剤費削減効果が得られた。
ベバシズマブの調製に用いたバイアル数と薬剤費は、400mg規格を291バイアルで4625万2122円、100mg規格を345バイアルで1439万9610円、合計6065万1732円となった一方、DVO導入時に使うと考えられるバイアル数と薬剤費は400mg規格を350バイアルで5562万9700円となり、502万2032円の薬剤費削減効果が得られた。
ただ、DVO導入にはCSTDの使用コストを考慮する必要がある。今回、リツキシマブで仮定。米国薬局方基準の要件に対し、DVO導入時に使用したCSTDと廃棄した残液のコストを差し引いたところ、新たにCSTDを使用してもコスト減につながることが分かった。同院薬剤部は、「CSTDの使用は、薬剤師の抗癌剤調製時の被曝を防ぐ効果もあり、CSTDを用いたDVO導入は有益」としている。
これらから、リツキシマブとベバシズマブの2薬剤にDVOを導入することにより、半年間で約1000万円の薬剤費を削減できることが明らかになった。今回の試算では2薬剤にとどまったが、オプジーボなど高価な抗癌剤の使用増が見込まれるため、DVOの導入により、抗癌剤の廃棄量と薬剤費の削減が期待できるとしている。