一出生あたりの帝王切開件数は増加傾向
東京大学は11月20日、レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)の分析を行い、全国の年間帝王切開術実施状況を初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科公衆衛生学の小林廉毅教授、秋田大学大学院医学系研究科環境保健学の前田恵理助教ら、埼玉医科大学産科婦人科学の石原理教授らと共同で行ったもの。研究成果は「The Journal of Obstetrics and Gynaecology Research」に掲載されている。
世界では、訴訟リスクの回避や患者医療従事者双方にとって予定を立てやすいなどの社会的理由により、一出生あたりの帝王切開件数が増加傾向にあり、母子の健康に与える影響が懸念されている。国内では、3年ごとに1か月間の手術件数等を調査する医療施設静態調査に基づき、帝王切開率が上昇傾向にあることが報告されてきた。しかし、年間を通した帝王切開の状況が把握されておらず、詳細な要因分析もされていなかった。
都道府県別の帝王切開率、14.0%から25.6%までの差
研究グループは、2013年に全国の医療機関から提出されたNDBを分析。診療行為コードに帝王切開術を含むレセプト件数は19万0,361件で、2013年の出生数が102万9,816人であることから、全国の帝王切開率は18.5%だった。これは、多くの先進国に比べて低く、一般集団レベルで考えた場合の理想的な帝王切開率に近い数字だという。
一方、都道府県別の帝王切開率は14.0%から25.6%までの差が見られ、母親の年齢で調整しても、その差はほとんど変わらなかった。母親の年齢で調整した帝王切開率と周産期医療体制の関連について都道府県別に分析したところ、予定帝王切開率は、分娩担当医師数が少ない県、新生児集中治療室(NICU)の病床数が少ない県、診療所での出生の割合が多い県で高くなる傾向があった。この結果は、周産期医療におけるマンパワーや施設が少ない場合や、小規模な施設で分散して分娩を取り扱っている地域では、万が一のリスクを避けるために、予定帝王切開術を行う傾向があることを示唆しているという。なお、緊急帝王切開率は、地域の周産期医療体制と明らかな関係はなく、曜日ごとの変動も少ないことから、場所や時によらない緊急対応が行われているという。
研究グループは今回の研究結果より、わが国では世界保健機関(WHO)が示す基準(10~15%)に近い割合で、総じて適切に帝王切開術が行われているとしたうえで、予定帝王切開率の地域差の背景には地域の周産期医療体制の違いが関連している可能性が示唆されるとしている。
▼関連リンク
・東京大学 広報・プレスリリース