安全で高機能だが取り扱いが困難なタンパク質
産業技術総合研究所は11月17日、3種類のタンパク質だけからなり、活性酸素を除去できる高機能なマイクロメートルスケールの構造体(タンパク質マイクロマシン)を開発したと発表した。この研究は、同研究所バイオメディカル研究部門次世代メディカルデバイス研究グループの山添泰宗主任研究員らによるもの。成果の詳細は、学術誌「Biomaterials」に掲載された。
画像はリリースより
血管や臓器の中で働くナノマシンやマイクロマシンを使って、病気の診断、病変部への薬の投与、有害物質の除去などを行う治療法が、期待を集めている。体内で働くナノ・マイクロマシンは、体に害を及ぼさない安全性の高い素材で作られ、役割を終えた後は体の中で自然に分解されてなくなるのが理想的とされる。
生体の主要な構成成分であるタンパク質は、生体適合性や生分解性があり、結合、触媒、伝達、輸送など多岐に渡る機能を持つため、安全で高機能なナノ・マイクロマシンの素材として有望だ。しかし、多くのタンパク質は、少しの刺激によって立体構造が壊れ、機能も失われる。このように取り扱いが困難なことから、複数のタンパク質を“部品”として、乾燥状態にも耐えられる強さと高度な機能を備えたナノ・マイクロマシンを組み立てることは困難だった。
マイクロマシンに捕捉された細胞の活性酸素量が70%減少
今回開発したタンパク質マイクロマシンの本体部分は、活性酸素を除去するタンパク質のスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)とさまざまな薬剤と結合するタンパク質の血清アルブミンで構成され、表面には標的となる細胞を捕捉するタンパク質の抗体が組み込まれている。抗体が活性酸素を分泌する細胞を捕捉し、本体内部のSODが過剰な活性酸素を除去。また、本体に結合した抗炎症薬の放出により、細胞の活性酸素生成を抑制できるという。
マイクロマシンを、活性酸素を分泌する細胞と混合したところ、マイクロマシンは、表面に組み込まれている抗体の働きにより良好に細胞を捕捉できることが判明。また、マイクロマシンに捕捉された細胞から周囲に分泌された活性酸素の量を測定したところ、マイクロマシンに捕捉されていない状態の細胞に比べて、検出される活性酸素の量が70%減少することがわかった。これはマイクロマシン内部のSODが有効に働き、捕捉した細胞から分泌される活性酸素の大部分を速やかに除去したことを示しているという。
また、マイクロマシン本体の主要成分であるアルブミンは、さまざまな薬剤と結合できることから、ジアポシニンを結合させたマイクロマシンを作製。この薬剤結合マイクロマシンを、多数の小さな穴が開いた膜を底に貼り付けた容器に入れ、活性酸素を分泌する細胞と膜を隔てて共存させた。これらの細胞から分泌する活性酸素量を測定した結果、マイクロマシンと共存させていない細胞に比べて、活性酸素量が大きく減少していたという。
一方、ジアポシニンを結合させていないマイクロマシンを用いた場合、検出される活性酸素量に大きな変化は見られなかった。このことから、薬剤結合マイクロマシンは、薬剤を周囲に放出することで、捕捉していないものの近くにある細胞についても活性酸素の生成を抑制できることが明らかになったとしている。
研究グループは今後、炎症性サイトカインに結合する抗体などを組み込み、潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性疾患の治療に役立つタンパク質マイクロマシンを開発するという。また、今回開発した作製手法をバイオセンサーやウェアラブルデバイスなどのデバイス開発にも応用するとしている。
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・産業技術総合研究所 研究成果