エボラ感染者の血液サンプルをマルチオミックス解析
東京大学医科学研究所は11月13日、エボラ出血熱の重症化メカニズムの一端を解明し、重症化を予測しうるバイオマーカーを同定したと発表した。この研究は、同研究所感染・免疫部門ウイルス感染分野の河岡義裕教授らの研究グループが、米ウィスコンシン大学、シエラレオネ大学、米パシフィック・ノースウェスト国立研究所、米マウントサイナイ大学と共同で行ったもの。研究成果は、米科学雑誌「Cell Host & Microbe」のオンライン速報版で公開されている。
2013年に西アフリカ諸国で発生したエボラ出血熱は、過去最大の流行を引き起こした。この流行では、流行地から帰国した医療関係者を中心に、欧米諸国でも十数名の感染者が出たことから、今後のエボラ出血熱の流行に備え、同感染症の病原性発現機構を詳細に解析し、治療・予防法を確立することが喫緊の課題である。
大量の膵酵素が血中に放出、全身症状につながる可能性
研究グループは、エボラ出血熱の重症化メカニズムを明らかにするために、シエラレオネ共和国において、エボラ感染者から採取した血液サンプルを用いて、宿主応答解析を実施。サンプルを採取した患者の総数は20名で、そのうち生存者は11名、死亡者は9名だった。またコントロール群として、10名の非感染者からも血液サンプルを採取した。血液サンプルから分離した血漿と末梢血単核球を用いて、プロテオーム(タンパク質)・メタボローム(代謝物)・リピドーム(脂質)・トランスクリプトーム(遺伝子)を包括的に調べるマルチオミックス解析を行ったという。
画像はリリースより
その結果、死亡者において、血漿中の膵分泌に関わるタンパク質(膵トリプシン、膵リパーゼなどの膵酵素)の発現量が多いことがわかり、エボラウイルス感染が膵臓障害を引き起こし、大量の膵酵素が血中に放出されることで、他臓器の障害や血液凝固不全などの全身症状につながる可能性が示唆された。また、トランスクリプトーム解析の結果から、死亡者では、好中球のマーカー遺伝子や好中球の活性化や分化に関わる遺伝子の発現が著しく亢進していることが判明。また死亡者の血中には、正常な好中球よりも低い密度の好中球(LDNs)が存在することがわかり、さらにLDNsがTリンパ球の機能異常や好中球による組織障害に関与する可能性が示されたとしている。
これらの結果から、エボラの重症化には、好中球が重要な役割を果たすことが判明した。 さらに研究グループは、メタボローム・リピドーム・プロテオーム解析の結果から、エボラウイルス感染後の生死と相関がある因子群を同定。これらの因子は、エボラ出血熱が重症化するかどうかを予測するバイオマーカーとなることが期待される。中でも血漿中代謝物であるL-スレオニンと血漿中タンパク質のビタミンD結合タンパク質がバイオマーカーとして最も有望であることが明らかになった。この知見は、今後のエボラ出血熱の流行発生時における公衆衛生対策に大きく貢献することが期待される、と研究グループは述べている。
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・東京大学医科学研究所 プレスリリース