血中にも存在し間質性肺炎のバイオマーカーとなっているSP-D
札幌医科大学は11月15日、上皮増殖因子受容体(EGFR)遺伝子変異陽性の肺がん細胞において、肺サーファクタントタンパク質D(SP-D)が抗腫瘍活性を持ち、患者の血清SP-D値はEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)の効果および予後と関連することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部呼吸器・アレルギー内科学講座の梅田泰淳助教と、医化学講座の長谷川喜弘助教らの研究グループによるもの。研究成果は、国際科学雑誌「Oncogene」に掲載されている。
画像はリリースより
肺がん細胞で過剰に発現しているEGFRは、がん細胞の増殖シグナルの起点となっている。EGFR-TKIによる治療では、エクソン19の欠失やエクソン21の点変異といったEGFRチロシンキナーゼドメインの遺伝子変異が重要で、これらの遺伝子変異が存在するとEGFR-TKIとの親和性が増し良好な奏効率を示す。しかし、二次変異獲得など例外なく耐性を獲得してしまうことが問題となっている。
肺サーファクタントは、肺胞の全表面を覆い、肺が虚脱することを防ぐことで円滑な呼吸を維持している。ここに含まれる特異的なタンパク質のひとつであるSP-Dは、肺の自然免疫に関与する。また、SP-Dは血液中にも存在し、血清SP-Dは間質性肺炎のバイオマーカーとなっている。以前よりSP-Dが肺がんの進展に抑制的に働いている可能性が示唆されてきたが、その分子メカニズムはよくわかっていなかった。
EGFR-TKI治療、血清SP-D高値群でOSとPFSが有意に延長
研究グループはこれまでに、SP-Dが野生型EGFRの糖鎖に結合し、EGFRのリガンド結合を阻害することで、EGFシグナルを抑制することを報告している。しかし、リガンド非依存性に活性化する変異型EGFRに対するSP-Dの作用は不明だったため、今回の研究ではSP-Dの変異型EGFRの活性に与える影響について検討。また、肺腺がん患者を対象に、血清SP-D値とEGFRの遺伝子変異の有無、EGFR-TKIの効果と予後との関係を調べた。
その結果、EGFR遺伝子変異陽性の肺腺がん細胞株において、SP-Dは変異型EGFRの自己リン酸化と下流シグナルを抑制し、細胞増殖、遊走、浸潤を抑制。SP-DはEGFRのN型糖鎖に結合し、変異型EGFRのリガンド依存性および非依存性の二量体形成を阻害した。また、EGFR-TKIとSP-Dを併用すると、細胞増殖がより抑制されたという。
今回の研究より、SP-Dは野生型だけではなく変異型のEGFR、二次変異を獲得したEGFRにも抗腫瘍活性をもつことが明らかとなった。今後、肺がんの新たな抗腫瘍薬の開発につながる可能性があるとし、また血清SP-D値は、EGFR-TKIの効果を予測する新たなバイオマーカーになることが期待される、と研究グループは述べている。
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