社会的コミュニケーションの障害とこだわり傾向の強さ
筑波大学は11月8日、自閉スペクトラム症者がコミュニケーションをとる上での困難には、他者が示すイレギュラーなリズムへの適応が困難なことが関係していることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大システム情報系の川崎真弘准教授、京都大学大学院人間・環境学研究科の船曳康子准教授と、理化学研究所の山口陽子チームリーダーら、帝塚山学院大学の深尾憲二朗教授らとの共同研究によるもの。研究成果は「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
自閉スペクトラム症の特徴としては、社会的コミュニケーションの障害とこだわり傾向の強さが二大特徴として挙げられる。この二大特徴同時発生の理解が必要不可欠だとされ、従来の研究では、種々の社会性を必要とする心理課題が用いられてきた。それに対して研究グループは、単純な行動リズム同期課題を作成し、自閉スペクトラム症の特徴を明らかにすることとした。先行研究によれば、会話時や拍手時などに行動リズム同期が観測されており、この同期によって人間関係が改善されることが報告されている。
研究グループは、行動リズム同期に起因する脳活動の負荷を分析するために、リズム同期課題時の脳波測定を行い、脳波リズム、行動リズム、自閉スペクトラム症の特徴の関係性を検証した。二者でリズムが一定になるように交互にキーボード押しを行うリズム同期課題時の脳波測定を行い、自閉スペクトラム症者と対照者の行動結果および脳波解析結果を比較検討。計測にあたっては、年齢、性別、知能指数でマッチングされた、24名の自閉スペクトラム症群(29.2±7.2歳、女性10名、男性14名)と24名の定型発達群(25.5±6.6歳、女性12名、男性12名)が、脳波測定に参加した。
人が持つリズムの揺らぎや急な変動への適応が困難
行動データ解析の結果、自閉スペクトラム症群は定型発達群に比べると、相手が人の場合や急に変動するPCプログラム相手だと同期量が少ないことが判明。この同期量の少なさは、主に自閉スペクトラム症のこだわり傾向の強さと関係があるとわかった。一方で、リズムが一定のPCプログラムが相手の場合は両群の同期量に差がなかったことから、自閉スペクトラム症者は人が持つリズムの揺らぎや急な変動に適応することが困難だということが明らかになった。
次に脳波データを解析した結果、自閉スペクトラム症群のみにおいて、認知負荷に関係する前頭シータ波が増加。この前頭シータ波の増加は、相手が人であってもPCであっても増加し、とくに自閉スペクトラム症のこだわり傾向の強さと関係があることが明らかになった。さらに、この前頭シータ波の増加は、課題の成績とは関係なく他者とリズム合わせをするだけで、脳に負荷がかかっていることがわかったという。
今回の研究成果より、自閉スペクトラム症の二大特徴であるコミュニケーションの困難さとこだわり傾向の強さは、他者のイレギュラーなリズムへの適応の困難さとして統合的に説明できる可能性が示された、と研究グループは述べている。
▼関連リンク
・筑波大学 注目の研究