遺伝的要因や運動習慣の影響を明確にするために10年間追跡
産業技術総合研究所は11月7日、動脈硬化の進行度合いの個人差を長期間追跡した結果、エンドセリン受容体遺伝子の配列の違いが関係することと、習慣的な有酸素性運動による抑制効果を初めて実証したと発表した。この研究は、同研究所人間情報研究部門人間環境インタラクション研究グループの菅原順主任研究員、バイオメディカル研究部門バイオアナリティカル研究グループの野田尚宏研究グループ長、松倉智子研究員らによるもの。研究成果は、米学術雑誌「Journal of Applied Physiology」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
心血管系疾患の発症リスクとして近年注目されているのが、動脈壁の硬さを示す「動脈スティフネス」。動脈スティフネスは加齢とともに増大するため、動脈スティフネスの維持・改善が、心血管系疾患発症の一次予防として重要視されている。これまでに、有酸素性運動などの身体活動を習慣的に行っている者では運動習慣のない同年代の者に比べて、動脈スティフネスが低い可能性があること、血管収縮を制御するエンドセリン受容体に関連する遺伝子多型のパターンによって、運動効果に違いがある可能性が報告されてきた。
今回の研究では、2003~2005年に動脈スティフネスを計測した成人92名を対象に、2013~2015年に動脈スティフネスを再測定し、質問により習慣的な有酸素性運動量を1週間当たりの消費カロリーとして推定。また、ET-A受容体とET-B受容体の一塩基配列変異多型を調べたという。
遺伝的リスクあっても、習慣的な有酸素性運動で増大抑制
その結果、動脈スティフネスの指標である上腕-足首間脈波伝播速度(baPWV)の10年間での増加量は、ET-A受容体の遺伝子多型がT/T型の人に比べ、T/C型とC/C型の人で有意に高く、ET-B受容体の遺伝子多型がG/G型の場合、A/AやA/G型よりも有意に高かった。また、ET-A受容体がT/C型・C/C型の場合やET-B受容体がG/G型の場合を遺伝子リスクとすると、リスク保有数が増えるほど、baPWVの増加量は段階的に増大。リスク保有数0の場合に比べて、リスク保有数2の場合では、10年間のbaPWVの増加量が2.5倍以上であったという。
一方、習慣的身体活動量の影響は、1週間の有酸素性運動量が低活動群、中活動群、高活動群の3群で、10年間のbaPWV増加量を比較すると、高活動群は他の2群に比べて、10年間のbaPWV増加量が1/3以下に抑えられていたという。さらに、ET関連遺伝子リスク数と有酸素運動の実施レベルは、それぞれ独立してbaPWVの変化量に影響を与えていることも判明。これにより、ET受容体に関連する遺伝子多型の特定のパターンを持つ場合、動脈スティフネスの加齢に伴う増大が著明であることが、今回の縦断的検討によって明らかとなった。また、遺伝的リスクを持っていても、習慣的に有酸素性運動を行っている場合は、動脈スティフネスの加齢に伴う増大を抑制できることもわかったとしている。
心血管系疾患の発症率や、動脈機能に対する有酸素性運動の効果には男女差があるという報告があることから、今回得られた知見も男女差の有無などを調べるという。また、他の遺伝子多型の影響についても、心血管系疾患発症予防のための効果的なスクリーニング法や、身体活動ガイドラインの確立を目指す、と研究グループは述べている。
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・産業技術総合研究所 研究成果