がん細胞に特異的な抗原を標的とするCAR-T細胞療法
大阪大学は11月7日、多発性骨髄腫では活性型の構造を有するインテグリンβ7が特異的に高発現し、CAR-T細胞療法の標的になり得ることを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の保仙直毅准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Medicine」にて公開された。
画像はリリースより
多発性骨髄腫は、抗体を産生する形質細胞が腫瘍化した血液がん。国内の患者数は約1万8,000人といわれている。近年の治療の進歩は著しいが治癒は極めて困難であり、新たな治療薬の開発が待ち望まれている。
がん免疫療法のひとつ「CAR-T細胞療法」は、がん細胞に特異的な細胞表面抗原を標的とする。リンパ性白血病ではタンパク質CD19が標的として用いられ、治療効果が報告されている。多発性骨髄腫に対しても同様の治療の開発が望まれるが、そのためには多発性骨髄腫細胞にのみ発現している細胞表面抗原を見つけることが必要だった。
マウスで正常細胞を傷害せず多発性骨髄腫細胞のみ排除
研究グループは、多発性骨髄腫細胞に結合するモノクローナル抗体を多種類作製。モノクローナル抗体1万0,000クローン以上の中から、多発性骨髄腫細胞に結合して正常血液細胞には結合しない抗体として「MMG49」を同定した。
次に、多発性骨髄腫細胞でMMG49が結合しているタンパク質が「インテグリンβ7」だと判明。正常な血液細胞にもインテグリンβ7タンパクは発現していたが、MMG49は正常血液細胞には結合しなかったという。詳細に解析した結果、MMG49は活性型立体構造をとったインテグリンβ7のみに結合することが判明。さらにインテグリンβ7は、ほとんどの正常血液細胞では不活性型構造で存在するが、多発性骨髄腫細胞では多くが恒常的に活性化型構造状態だということが明らかになった。
インテグリンβ7は血液細胞以外の組織では発現が見られないため、活性化インテグリンβ7を認識するMMG49は特異的に骨髄腫細胞に結合する。そこで、MMG49の抗原認識部位を持つCAR-T細胞を作製。マウスを用いた実験で、MMG49由来CAR-T細胞は正常細胞を傷害せずに、多発性骨髄腫細胞のみを特異的に排除することを示したという。
現在、AMED革新的がん医療実用化研究事業において、医師主導治験の準備が進められているという。
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