生体内タンパク質分子の異常凝集、アルツハイマー病などとの関係も
東京大学は11月2日、タンパク質数十個の分子が凝集する過程で、激しいブラウン運動を伴う分子凝集体の形成と崩壊が繰り返されていることを世界で初めて観察したと発表した。この研究は、同大大学院新領域創成科学研究科(産業技術総合研究所-東京大学先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ兼務)の佐々木裕次教授、大阪大学、神戸大学、高輝度光科学センターの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」のオンライン速報版で公開されている。
画像はリリースより
生体内タンパク質分子の異常凝集として有名なアミロイドーシスは、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経系疾患から、2型糖尿病などの内分泌疾患、プリオン病など20種類以上の疾患との関係が議論されている。しかし、それぞれの疾患に対する有効な治療法は確立されていない。その原因には、生体内溶液中でのタンパク質分子の動的な振る舞いに関する情報の欠如がある。研究グループは、タンパク質溶液の局所的な1分子動態観測とその計測技術の確立を目的とし、凝集化プロセスのモデルケースとして、過飽和溶液条件下での分子凝集に着目した。
激しいブラウン運動を伴う分子凝集体の形成と崩壊を繰り返す
研究グループは、超高感度1分子計測法であるX線1分子追跡法(DXT)を用いた。DXTは、直径20~80nmの超微小金ナノ結晶をタンパク質分子の目的のアミノ酸位置に化学標識し、ナノ結晶の運動をX線回折観察から高速時分割追跡できる。同技術・コンセプトは、佐々木裕次教授が1998年に考案・実証したもの。このDXTは、これまで1分子の高速計測を目的として利用されてきたが、今回初めて、タンパク質分子のナノ微小領域動態計測に適用できることが明らかになったという。
研究グループはDXTの応用により、過飽和溶液中のタンパク質分子(リゾチーム)の凝集化プロセスで、タンパク質分子内部およびその周辺が激しく運動していることを観測。この結果を詳細に解析したところ、この激しい運動は、フェムトニュートンという非常に微弱な力場を形成していることが判明した。これは、激しいブラウン運動を伴う分子凝集体の形成と崩壊が繰り返されていることを示しているという。
今回の研究成果により、アルツハイマー病などの発症プロセスと強く関わるタンパク質凝集プロセスを1分子観察できるようになった。これによって、過飽和現象を利用した新しい治療戦略を展開できる可能性がある、と研究グループは述べている。
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