日常生活に支障を及ぼさないレベルで認知機能が低下するMCI
熊本大学は10月31日、軽度認知障害の高齢者は、健常高齢者に比べてヒトの顔を短期的に記憶する能力が低下しており、顔を記憶する時の視線行動に異変が生じていることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院社会文化科学研究科の川越敏和大学院生と文学部の積山薫教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Scientific Reports」に掲載されている。
アルツハイマー型認知症は認知症の中で最も多いとされ、その予備群を高頻度に含むと考えられる軽度認知障害(MCI)は、日常生活には支障を及ぼさないレベルで記憶などの認知機能が低下する状態だ。
MCI者は、ヒトの顔を視覚的に処理する領域が構造・機能的に変容していることが、脳画像研究によって示されている。先行研究より、MCI者は顔の記憶力が低下するという報告はあるものの、顔以外の他の刺激に対する記憶との比較がなされていないなどの問題があった。
MCI者の記憶成績、顔の画像が家の画像よりも低下
研究グループは、各18名の高齢の健常者とMCI者に対する比較実験を実施。2種類の画像(初めて見る顔や家の画像)を覚えようとしているときの視線の動向を記録し、視覚的再認課題を被験者におこなった。その結果、健常者は顔と家の画像間の記憶成績に差がなかったが、MCI者の記憶成績は顔の画像が家の画像よりも低下していることが判明。また記憶時の視線行動は、健常者に比べてMCI者で目元への視線の集中が減り、口元への視線が増えるというパターンが確認されたという。
今回の研究成果により、MCI者では顔の短期記憶力が低下し、視線布置が健常者と異なる可能性が示された。目元を見ることは、顔を全体的に覚えるために重要だという。MCI者では、脳機能の低下によって顔の認知処理過程に異常が生じており、それを補うために分散的な視線布置を行っていると考えられる、と研究グループは述べている。
▼関連リンク
・熊本大学 プレスリリース