がんに対する免疫反応も抑制してしまう制御性T細胞
岡山大学は10月27日、2型糖尿病治療薬メトホルミンが、がん局所に存在する制御性T細胞の増殖と機能を抑制することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯薬学総合研究科免疫学分野の鵜殿平一郎教授らと顎顔面外科学分野の佐々木朗教授らの研究グループによるもの。研究成果は「EBioMedicine」オンライン版に掲載されている。
免疫は時として自身の身体を攻撃することがあり、慢性関節リウマチなどの自己免疫疾患を引き起こす。自己免疫疾患を起こさないよう、生体には制御性T細胞と呼ばれる細胞集団が備わり、過剰な免疫反応を抑えている。しかし、この制御性T細胞は、がんに対する免疫反応をも抑制してしまい、その結果、がんの増大を許すことになる。
そのため、がんの予防や治療には、制御性T細胞の数を減らすか、その機能を抑制することが重要だが、制御性T細胞を抑制すると、自己免疫疾患発症の可能性がある。したがって、自己免疫疾患を発症させることなく、がんのみに効果的な免疫反応を得るためには、がんの中に存在する制御性T細胞だけを抑制し、がん以外の部分に存在する制御性T細胞の数と機能には影響を及ぼさないことが理想的であるという。
腫瘍塊の中の制御性T細胞がアポトーシスに陥ることをマウスで確認
研究グループは、胆がんマウスにメトホルミンを自由飲水にて投与したところ、腫瘍塊の中で増殖するはずの制御性T細胞がアポトーシスに陥り、その数が激減することを発見。詳細な検討の結果、制御性T細胞の本来のエネルギー代謝である脂肪酸に依存した酸化的リン酸化反応が減少し、代わりに糖に依存した解糖系が亢進することで、細胞死に至る経路を活性化していることが明らかになったという。メトホルミンは糖質代謝改善薬であるため、効率的な解糖系の促進を誘導し、その結果、それまで脂肪酸を取り入れて生存していた制御性T細胞の代謝バランスが崩壊し、細胞死に至ったとしている。
今回の研究成果は、制御性T細胞だけではなく、脂肪酸を取り込んで生存しているその他の免疫抑制的な細胞集団の制御にも応用できる重要な知見を提供しており、その分子機構のさらなる解明が期待される、と研究グループは述べている。
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・岡山大学 プレスリリース