負担の少ない手術選択につながるリンパ節転移の有無の判別
順天堂大学と理化学研究所は10月26日、SEMA3DとTACC2新規アイソフォームが子宮体がんのリンパ節転移診断のバイオマーカーになりうることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科・産婦人科学講座の吉田惠美子大学院生(理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター機能性ゲノム解析部門リサーチアソシエイト)らと理化学研究所予防医療・診断技術開発プログラムの伊藤昌可コーディネーターらの研究グループによるもの。今回の研究は、英科学雑誌「Scientific Reports」で公開された。
画像はリリースより
子宮体がんの治療は手術が基本であり、がんのある子宮だけでなく、子宮を取り囲むリンパ節を含めて、がん細胞が転移している可能性のある範囲を切除することが一般的だ。しかし、結果的にリンパ節に転移が見られなかった場合、手術後に、リンパ節郭清が過剰な実施だったことがわかる。このような過剰なリンパ節郭清は、治療的意義に乏しいだけでなく、難治性のリンパ浮腫を引き起こすことがある。
そこで研究グループは、リンパ節転移の有無を術前に見分けることが可能になれば、多くの女性が負担の少ない手術治療を選択することができると考え、リンパ節転移診断バイオマーカーの探索を目的に、子宮体がんの遺伝子解析を実施したという。
92.2%の精度でリンパ節転移を識別
研究グループは、リンパ節転移陽性群と陰性群でがん原発巣の遺伝子発現に違いがあると考え、転移陽性群5例、陰性群10例の子宮体がんのがん原発巣組織よりCap Analysis of Gene Expression(CAGE)法を用いて、遺伝子発現の高解像度測定をゲノム全体に渡って実施した。その結果、転移陽性群と陰性群で有意に発現差のある2,000程度の遺伝子群が得られ、バイオマーカーとしての診断精度から、最終的に6つの候補遺伝子を抽出したという。
次に、約100症例の子宮体がん組織を用いて検証を行い、リンパ節転移の有無に最も相関する、TACC2新規アイソフォームとSEMA3Dの2遺伝子を同定した。これら2つのマーカー遺伝子は、それぞれ単独でもリンパ節転移陽性群と陰性群の2群間で有意な発現差を認めるが、2つの遺伝子発現量を組み合わせることで、バイオマーカーの識別尺度であるArea Under the Curve(AUC)が92.2%という高い識別精度を示したという。また、同マーカーは、偽陰性率が0%となる極限(感度100%、陰性的中率100%)にカットオフ値が設定できる可能性が示唆されたという。
今回の研究成果は、リンパ節郭清術適用の個別化に貢献し、低侵襲化を実現しながらリンパ節転移診断を効率的かつ正確に実施できる可能性を有している、と研究グループは述べている。
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・順天堂大学 プレスリリース