三次元培養下での形態を指標として分離
産業技術総合研究所と筑波大学は10月23日、マウス乳がん由来細胞4T1Eを、ハイドロゲルに包埋した三次元培養下での形態を指標として分離したところ、形態ごとに異なる性質を示すサブポピュレーションが得られ、それらが異なる薬剤感受性を示すことを確認したと発表した。この研究成果は、米国科学誌「PLOS One」オンライン版に掲載された。
画像はリリースより
がんの性質は患者ごとに異なり、また同じ患者の同じ臓器の腫瘍組織自体も「腫瘍内不均一性」があり、この性質ががん治療を困難なものとする原因のひとつとして注目されている。この腫瘍内不均一性を理解するためには、不均一な細胞集団を何らかの手法で分離して解析する必要がある。
フローサイトメトリーなど従来の細胞分離法では、一般的に細胞表面のマーカーを基準として細胞を選別する。しかし、これらの方法は表面抗原が特定された免疫細胞などを選別するのには有用な方法だが、マーカーが特定されていない未知の細胞を選別するのは困難だ。
コロニー状の細胞と顆粒状の細胞で異なる薬剤応答性
研究グループは、三次元培養環境から特定の形態をしているがん細胞を分離する細胞分離装置「ハイコンテンツイメージングセルソーター」の開発を進めている。この装置は、光照射に応じて溶解する光分解性ゲルを用いており、不均一な細胞集団を光分解性ゲルに包埋し、分離対象とする細胞の周辺に光を照射することで光分解性ゲルを局所的に溶解して、特定の細胞のみを回収することができるという。
今回、研究グループは、光開裂性架橋剤を用いて調整した光分解性ゲルを用いて、マウス乳がん由来細胞株4T1Eからコロニー状の細胞と顆粒状の細胞を分離。その細胞を用いて、がんの悪性度に関連する解析を行ったところ、分離の際に指標とした形状に応じて異なる悪性度を示したという。また、ヌードマウスにおのおのの細胞を移植すると、コロニー状の細胞は腫瘍サイズの増大が顕著であるものの、顆粒状の細胞は増大しにくいことが確認されたという。さらに、分取した細胞塊の薬剤応答性を検討した結果、一部の薬剤に対する応答がコロニー状の細胞と顆粒状の細胞とで異なることが確認されたとしている。
この研究成果は、不均一な細胞集団を分離した上で検査することの重要性を示唆している。研究グループは、患者ごとのがん治療薬の有効性が事前に確認できるようになり、今後のがんの治療戦略において、個別化医療の推進に寄与することが期待される、と述べている。
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