新たなモデルマウスを樹立・解析
東京医科歯科大学は10月16日、マクロファージにおけるMKL1遺伝子の発現増強が炎症性腸疾患発症に関与することを、モデルマウスを新たに樹立して解析することで明らかにしたと発表した。この研究は、同学難治疾患研究所分子病態分野の木村彰方教授(特命副学長)らによる研究グループによるもの。研究成果は、国際科学誌「Scientific Reports」オンライン版に掲載されている。
クローン病および潰瘍性大腸炎を代表とする炎症性腸疾患は、腸管組織の慢性的な炎症を特徴とする難治性疾患。マクロファージの機能異常に起因する恒常性の破綻が発症に関与すると考えられているが、その分子機序には不明な点が残されている。
炎症性腸疾患の動物モデルとしてデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘導性腸炎が用いられているが、近年、MKL1遺伝子を欠損したマウスでは、DSS誘導性腸炎が軽症化することが報告されていた。そこで研究グループは、DSS誘導性腸炎モデルの病態形成機構におけるMKL1遺伝子の関与と、マクロファージの機能異常機序について、研究を実施した。
PPARγなど転写因子の関与が示唆
DSS誘導性腸炎における大腸粘膜固有層に浸潤した組織マクロファージを調べたところ、MKL1遺伝子の発現量が有意に亢進していることが判明。そこで、マクロファージ特異的にMKL1遺伝子を高発現するMKL1トランスジェニックマウス(MKL1-Tg)を作製したところ、大腸短縮、直腸脱、陰窩炎などの腸炎様病態を自然発症し、DSS誘導性腸炎の発症感受性が高いことがわかったという。
また、MKL1-Tgで大腸組織マクロファージの炎症抑制機能が低下すること、骨髄由来マクロファージの分化・活性化異常が生じて炎症誘導型(M1)が優位になること、DSS誘導性腸炎が重症化することを確認。さらに、MKL1による炎症制御機構として、PPARγなどの転写因子の関与が示唆されたという。
今回樹立したMKL1-Tgを用いた解析から、MKL1遺伝子の発現が亢進することでマクロファージの分化・活性化に異常が生じ、その結果として炎症性腸疾患の発症に至ることが示された。今後、MKL1遺伝子に着目してヒトの炎症性腸疾患を検討することで、さらなる発症機構の解明が期待されるとともに、MKL1-Tgをモデル動物とした治療実験等を行うことで、新たな治療法開発に繋がる、と研究グループは述べている。
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・東京医科歯科大学 プレスリリース