寛解導入後の再発率が高いバセドウ病
東京医科歯科大学は10月18日、白血球中のSialic acid-binding immunoglobulin-like lectin1(Siglec1)遺伝子発現レベルが、バセドウ病の再発を高精度の予測する新しいバイオマーカーとなり得ることを発見し、臨床応用が可能なことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科メタボ先制医療講座の橋本貢士寄附講座准教授らと、群馬大学、隈病院(神戸)、伊藤病院(東京)との研究グループによるもの。研究成果は、米専門誌「Thyroid」オンライン版に掲載された。
画像はリリースより
バセドウ病は、TSH(甲状腺刺激ホルモン)レセプター抗体(TRAb)が体内で産生されることで甲状腺を刺激し、過剰な甲状腺ホルモン分泌を引き起こす自己免疫疾患。日本では、抗甲状腺薬による薬物療法が最も多く選択されているが、寛解導入後の再発率が高く、臨床上の問題になっている。現在、再発の予測に寛解時の血清TRAb値が主に用いられているが、その精度は不十分で、高率に再発を予測するバイオマーカーの開発が切望されている。
研究グループは、バセドウ病の再発を繰り返す患者の末梢血白血球において、細胞接着分子のSiglec1遺伝子発現が著明に増加していることを発見。Siglec1がバセドウ病の再発を予測する新しいバイオマーカーになり得るか検証した。
Siglec1遺伝子発現レベルは病勢に影響されず
まず、後ろ向き研究として、寛解群(non-R)187名(男性39名、年齢平均48.8±13.1歳。女性148名、年齢平均52.4±14.0歳)と再発経験群(R)171名(男性40名、年齢平均47.7±14.7歳。女性131名、年齢平均47.3±13.6歳)のエントリーを得て解析。その結果、Siglec1遺伝子発現レベルは、non-R群で中央値201.1コピー、R群で368.8コピーとR群で有意に高値を示したという(P<0.0001,Student’s unpaired t-test)。
また、Receiver Operating Characteristic(ROC)解析により、再発経験のSiglec1遺伝子発現レベルのカットオフ値は258.9コピーと算出。その値に基づいた治療終了時のSiglec1遺伝子発現レベルと再発の有無を、55名のバセドウ病患者に対して120か月間、前向き研究を行った。その結果、治療終了時のTRAb値と比較して、有意に高精度に再発を予測したという(P=0.022,the Log-rank test)。
さらに、TRAb値がバセドウ病の病勢を反映する一方で、Siglec1遺伝子発現レベルは病勢に関わらず、ほぼ一定レベルに維持されており、バセドウ病の難治性を規定している可能性が示唆されたとしている。
今回の研究成果により、バセドウ病の寛解時にSiglec1遺伝子発現レベルによって再発を高精度に予測することで、再発防止のために患者一人ひとりに正確医療(precision medicine)を行うことが可能になり、生活の質の向上が期待される。さらに Siglec1は難治性バセドウ病の病態解明のてがかりとなることが期待される、と研究グループは述べている。
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