患者数1000万人以上の慢性腎臓病の進行因子、腎臓線維化
東京医科歯科大学は10月16日、多発性骨髄腫の治療薬「ボルテゾミブ」に腎臓線維化予防効果があることを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科腎臓内科学分野の内田信一教授、森崇寧助教、銭谷慕子助教らの研究グループによるもの。研究成果は、国際科学誌「Scientific Reports」に発表されている。
画像はリリースより
慢性腎臓病(CKD)は、推計総患者数が1000万人以上だといわれ、末期腎不全で透析治療を受けている患者は30万人以上いる。腎臓の組織線維化は、CKDの進行因子であり、治療ターゲットとして重要な要素のひとつと考えられてきたが、現在までに有効かつ実際の臨床で使用できる腎線維化治療薬はなかった。
ボルテゾミブは、多発性骨髄腫の治療で実際に使用されており、多発性骨髄腫に合併した腎機能障害の改善に有効だといわれているが、この腎機能改善効果は骨髄腫の改善に付随するものと理解されてきた。一方で、同剤は肝臓や皮膚において抗線維化効果を発揮する事が報告されている。腎臓でも同様の効果を持つ事が期待されたが、現在までその効果を検証した報告はなかった。
線維化誘導のマスターレギュレーターをタンパクレベルで抑制
研究グループは、腎臓に線維化を起こすアリストロキア酸を使用してマウス腎線維化モデルを作成し、ボルテゾミブの腎線維化予防効果を検証。その結果、ボルテゾミブは、アリストロキア酸により誘導された腎機能障害やタンパク尿を優位に改善させ、同時にαSMA、Kim1、Ngalといった腎障害マーカータンパクの発現を抑制し、実際に線維化領域が減少することを組織学的にも確認した。
さらに、ボルテゾミブ投与群は、線維化誘導のマスターレギュレーターとされるTGF-β1、およびその下流分子のSmad3を共にタンパクレベルで抑制すると共に、アリストロキア酸によって病的に亢進した腎組織内アポトーシスを減弱させ、線維化の改善に寄与していることを示したという。
ボルテゾミブはすでに広く臨床で使用されている薬剤で、その安全性は確認されている。従来、血圧管理や食事療法などの保存的手段しかなかったCKD治療において、速やかに適用できる新たな一手となる可能性がある、と研究グループは述べている。
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・東京医科歯科大学 プレスリリース