乳がんや肺がん等の治療に用いるパクリタキセル
京都大学は10月16日、手足を冷却することで抗がん薬パクリタキセルの副作用の末梢神経障害(しびれ)を予防できることを確認したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科学生の華井明子氏、石黒洋特定准教授(現・国際医療福祉大学医学部教授)ら研究グループによるもの。研究結果は、「Journal of the National Cancer Institute(JNCI)」に掲載された。
画像はリリースより
乳がんや肺がん等の治療に用いるパクリタキセルは、副作用でしびれが生じることがある。この原因は、神経にパクリタキセルが取り込まれることで細胞体や軸索を障害すること、血管や感覚器などの末梢組織にダメージを与えることなどが影響している可能性があるとされているが、その詳細なメカニズムはよくわかっていない。有効な治療方法はなく、効果的な予防手段の開発が期待されていた。
研究グループは、局所的に血流の量を減らすことができる冷却に着目。このような予防法は、これまでに爪や皮膚の副作用予防のために用いられていたが、しびれに対する予防効果があるかは不明だった。
冷却した手足では病状進行のリスクが87%低下
研究グループは、パクリタキセルの治療を受ける乳がん患者40名を対象に、-25~-30°C下で冷やした冷却用グローブとソックスを用いた手足の局所冷却がしびれ予防に有効か、研究を実施。パクリタキセルの点滴中に利き手側の手足を冷却し、逆の手足は通常の治療と同様に何も行わずに、12週間以上の抗がん薬治療を行った。
その結果、冷やした利き手側では、しびれや違和感などの自覚症状だけでなく、触覚や温度感覚、手先の器用さの変化についても、悪化を予防できることが判明。自覚症状については、冷却しなかった手足では半数以上の患者が「ものをよく落としてしまう」「細かい作業がやりにくくなった」「歩きにくくなった」といった日常生活に支障が出る程度のしびれを感じていた。一方で、冷却した手足にそのようなしびれを感じる人は数%しかおらず、しびれが出たとしても気にならない程度で済んだという。また、生活に支障をきたすような中等度から重度のしびれを感じるまでの期間に関しても、冷却した手足では病状進行のリスクが87%低くなることが明らかとなったとしている。
手先の器用さについては、小さなピンをつまんでできるだけ早くボードに刺していく検査を通して、速さの変化を比較。冷却していない手では動作が遅くなっていく傾向がみられ、感覚がわからずにピンを落としてしまう例も見られたという。
今後、臨床の現場で冷却技術を適正に施行するために、保険適応や機器の提供、スタッフの充実を図ることが望まれる、と研究グループは述べている。
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・京都大学 研究成果