4つの転写因子を導入、直接胎児性の腸前駆細胞へ変化
日本医療研究開発機構(AMED)は10月13日、世界で初めて、マウスの皮膚やヒトの血管の細胞に4つの転写因子を導入することで、直接、胎児性の腸前駆細胞へ変化させる「ダイレクトリプログラミング」に成功したと発表した。この研究は、九州大学生体防御医学研究所の鈴木淳史教授と大学院医学系学府の三浦静博士課程4年の研究グループによるもの。研究成果は「Cell Stem Cell」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
食物の消化や吸収を担う小腸や大腸は、胎児期の腸管を形成する腸前駆細胞が成体型の腸幹細胞へと成長することで形成される。近年の研究により、これら胎児性の腸前駆細胞や成体型の腸幹細胞の培養系が確立され、三次元培養下において、生体内の腸上皮組織を模倣した三次元組織構造体(オルガノイド)を形成することができる。
腸上皮オルガノイドは、生体外で腸上皮組織を維持・培養できることから、基礎研究だけでなく、移植医療や創薬研究での利用も期待されているが、材料となる腸の組織を生体から生きたまま取り出すことは患者への負担が大きく、また、多能性幹細胞から分化誘導する場合も複雑な方法が必要になる。そのため、腸上皮オルガノイドを医療や創薬に応用するためには、新たな供給源の確保が望まれている。
得られた成体型の腸幹細胞、多分化能と自己複製能有する
研究グループは、過去に行った研究の中で、ダイレクトリプログラミングの手法により、マウスの皮膚の細胞から肝細胞を作製することに成功している。そこで今回の研究では、この知見を活用しながら、胎児性の腸前駆細胞を作製すべく、研究を進めた。その結果、マウスの皮膚やヒトの血管の細胞に4つの転写因子(Hnf4α、Foxa3、Gata6、Cdx2)を導入することで、これらの細胞を、直接、腸前駆細胞へ変化させることに成功した。研究で誘導に成功した胎児性の腸前駆細胞は、三次元培養下で腸上皮オルガノイドを形成して増殖し、成体型の腸幹細胞が作る腸上皮オルガノイドへと成長。得られた成体型の腸幹細胞は、腸上皮組織を構成するすべての細胞へ分化する能力(多分化能)と長期間自己と同じ細胞を作り続ける能力(自己複製能)を有するという。
また、誘導した胎児性の腸前駆細胞や成体型の腸幹細胞が作る腸上皮オルガノイドを大腸炎モデルマウスに移植すると、長期間、腸上皮組織を再構築することが可能だという。これらの結果から、誘導した胎児性の腸前駆細胞や成体型の腸幹細胞と同様の性質を有することが明らかとなった。
ダイレクトリプログラミングの手法によって作製される腸前駆細胞を用いることで、既存の方法に対し、より簡便かつ効率的に腸上皮オルガノイドを取得できるようになると考えられる。今後、作製した腸上皮オルガノイドを用いた腸疾患の病態解析や再生医療、創薬研究への展開が期待される、と研究グループは述べている。
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・日本医療研究開発機構 プレスリリース