健常人と動脈硬化症例でHDLに違いが見られるか探索
神戸大学は10月12日、炎症を抑える働きを持ち「善玉」とも呼ばれる「高比重リポタンパク(HDL)」が、動脈硬化症例では「悪玉」になっていることを見出したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科疫学分野の篠原正和准教授らが、同医学研究科循環器内科学分野の平田健一教授と共同で行ったもの。研究成果は「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
HDLは末梢組織で余剰になったコレステロールを肝臓へ運ぶコレステロール逆転送系に関与し、また抗炎症作用を発揮することで動脈硬化の予防に重要な役割を果たす。そのためHDL機能が低下すると、動脈硬化疾患を起こしやすくなることが知られているが、さまざまな疾患においてHDL機能が低下する原因は十分にわかっていない。
今回の研究では、健常人と動脈硬化症例の血液から超遠心法によってHDLを分取。それぞれのHDLを構成するタンパクや脂質の質に違いが見られるか、またHDL機能を悪化させる因子について質量分析計を用いて探索した。
動脈硬化症例のHDL、自らがLTB4を産生
さまざまな炎症反応・生体防御に重要な役割を担うマクロファージとHDLとの相互作用を検討した結果、健常人のHDLはマクロファージへ取り込まれ、活性化されたマクロファージで発現が増加するLTB4産生酵素5-リポキシゲナーゼ(5-LO)を分解し、炎症性脂質LTB4産生を抑制することが明らかになった。
一方、動脈硬化症例のHDLには5-LOを始めとするLTB4産生酵素ユニットが含まれており、HDL自らがLTB4を産生。このLTB4の影響で、HDLがマクロファージへ取り込まれなくなり、活性化したマクロファージの5-LOが分解されず、LTB4産生が持続してしまうことがわかったという。
研究グループは、機能不全HDLから放出されるLTB4の働きを阻害することで、周囲のマクロファージに与える悪影響を無くし、健常人のHDLのように抗動脈硬化作用を取り戻す効果、さらには動脈硬化疾患のみならず、慢性炎症が関わると考えられている生活習慣病やがんの新たな病態の理解・予防・利用法の開発に貢献することが期待される、と述べている。
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