早産予防のほか、気管支喘息にも使用されるβ2刺激薬
国立成育医療研究センターは10月11日、切迫早産の治療として用いた妊婦の経静脈的な塩酸リトドリンの使用と出生児の5歳における喘息有症率との間には有意な関連があり、塩酸リトドリンを使用した群で発症リスクが高くなることを見いだしたと発表した。この研究は、同センターアレルギー科の大矢幸弘医長、同産科の小川浩平医師らの研究グループによるもの。研究成果は、英際誌「Pediatric Allergy and Immunology」に掲載されている。
画像はリリースより
喘息の発症リスクを増やす要因にはさまざまな因子があり、小児期の生活環境(受動喫煙や大気汚染への曝露など)や性別・アレルギー素因などの個体因子が知られている。その他、一部は妊娠中の母親の喫煙や抗生剤の使用など、胎児期の曝露も関わっているとされている。
β2刺激薬の塩酸リトドリンは、妊娠中の早産予防の目的で子宮収縮抑制剤として使用される一方で、その気管支拡張作用のため気管支喘息にも使用される。そのうち吸入β2刺激薬の長期投与は、一般の小児や成人で、気道過敏性の亢進による喘息の増悪を引き起こすことが知られている。塩酸リトドリンは胎盤通過性があることが知られているため、研究グループは今回、母体への投与が児の小児喘息有症率を増加させるかどうかについて検証した。
累積投与量1.6g以上、投与日数20日以上で有症率が有意に高く
今回の研究は、同センターで行われた出生コホート研究データベースを使用して実施。2003~2005年の妊娠女性を登録し、女性とその児を継続的に追跡調査している。対象となった1,158人を塩酸リトドリンの有無で二群に分け、その喘息有症率を比較。また、容量や投与期間による違いを検討するため、塩酸リトドリン使用群をさらに二群(長期投与群と短期投与群、または低累積投与群と高累積投与群)に分けて検討した。
その結果、妊娠中に経静脈的に塩酸リトドリンの投与を受けると、出生後児が5歳になったときの喘息有症率が上昇。この関係に影響を与えうる因子(分娩週数など)を補正してもその関連は有意であり、塩酸リトドリンを使用したケースでの調整オッズ比(発症しやすさ)は2.04だった。
さらに、妊娠中に投与された経静脈的な塩酸リトドリンの投与日数が多いケースで、喘息有症率が高くなることが判明。塩酸リトドリン使用なしのケースと比較すると、19日以内の投与を受けた群では喘息の有症率は有意な差を認めなかったが、20日以上の投与を受けた群では有意に(調整オッズ比:2.95)喘息の有症率は高くなったという。
同様に、累積投与量が多くなると、喘息有症率はより高くなることも明らかになった。リトドリン使用なしのケースと比較すると、塩酸リトドリンの累積使用量が少ないケース(1.6g未満)では喘息の有症率は有意な差を認めなかったが、塩酸リトドリンの累積使用量が多いケース(1.6g以上)では有意に(調整オッズ比:3.06)喘息の有症率は高くなったという。
研究グループは、今回の研究における喘息の診断は質問紙票による症状に基づくものであり、実際の呼吸機能や気道過敏性の評価は行っていないため、その解釈には一定の注意が必要だと述べている。さらに、5歳の子どもの喘息は就学後に自然治癒することも多く、塩酸リトドリンが5歳以降どのように関連していくのかに関しても、さらなる長期間の追跡が必要であるという。塩酸リトドリンの長期使用に関しては、使用による早産予防効果と児への影響などのリスクの双方を鑑みて決定することが重要だとしている。
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・国立成育医療研究センター プレスリリース