がん細胞の生存に関与するアルドケト還元酵素1B10
富山大学は10月10日、非小細胞肺がん細胞の増殖能と転移能に加え、シスプラチン耐性化を抑制する新規選択的アルドケト還元酵素(AKR)1B10阻害剤の開発に成功したと発表した。この研究は、同大大学院理工学研究部(工学)生命融合科学教育部の豊岡尚樹教授、同大和漢医薬学総合研究所の早川芳弘教授らの研究グループが、岐阜薬科大学生命薬学大講座生化学研究室の遠藤智史助教の研究グループと共同で行ったもの。研究成果は、米化学会誌「Journal of Medicinal Chemistry」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
AKR1B10は、2005年に非小細胞肺がんで高発現が報告されて以来、多くのがん種で高発現していることが報告されてきた。この酵素は、レチノイド、イソプレノイドなどの還元代謝を介してがん細胞増殖に関わるほか、酸化ストレス由来脂質過酸化によって生成する4-ヒドロキシノネナールなどの反応性アルデヒドを解毒還元することで、がん細胞の生存や抗がん剤耐性化にも関与することが明らかにされている。
構造的に類似するアルドース還元酵素への阻害活性は低く
今回、新たに創製した化合物「4c」「4e」は、現時点で最も強力なAKR1B10阻害活性を示す一方で、AKR1B10と構造的に類似するアルドース還元酵素に対する阻害活性が低いという特徴を有する。このように高い阻害活性と選択性を兼ね備えたAKR1B10阻害剤はこれまでにほとんど存在せず、現時点で最も有効なAKR1B10阻害剤であるという。
また、同化合物がAKR1B10の阻害を介して、肺がん細胞の増殖能や転移能を抑制するだけでなく、非小細胞肺がんの治療に用いられるシスプラチンに対して耐性能を獲得した肺がん細胞のシスプラチン感受性を回復させることも明らかになった。
これらの知見は、AKR1B10が抗がん剤耐性克服の新たな治療標的となることを示唆している。同化合物が非小細胞肺がんだけでなく、AKR1B10が高発現する抗がん剤耐性がんの治療に貢献する可能性がある、と研究グループは述べている。
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