心臓の再生医療実現には安全性の高い心筋細胞の大量作製が必要
慶應義塾大学は10月6日、特殊な多層接着培養プレートを利用することにより、ヒトiPS細胞および分化心筋細胞を大量培養することに成功したと発表した。この研究は、同大医学部の遠山周吾特任助教、藤田淳特任准教授、内科学(循環器)教室の福田恵一教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米科学誌「Stem Cell Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
心筋梗塞、拡張型心筋症などが重症化すると、数億個もの心筋細胞が失われてしまうが、ヒトを含む哺乳類は、失われた心筋細胞を元に戻す自己再生能力を有していない。胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)は、体を構成するほとんどの細胞種へと分化できる多能性をもつことから、このような疾患に対し、体外で作製した治療細胞を体内に移入することによる「再生医療」の実現が期待されている。しかし、心臓の再生医療を実現化するためには安全性の高い心筋細胞を大量に作製する必要があり、それが臨床応用における大きなハードルになっていた。
一度の培養で約10億個のヒトiPS細胞・分化心筋細胞の作製が可能に
今回、研究グループは味の素株式会社と共同で、大量培養に特化したヒトiPS細胞用未分化維持培養液を開発。その培養液を用いて、多層接着培養プレート(10層)上でヒトiPS細胞を培養したところ、酸素や二酸化炭素を強制的に通気しない場合には増殖効率が安定しないという問題が判明した。そこで、強制的に酸素や二酸化炭素を通気したところ、ヒトiPS細胞の増殖が安定し、通気しない場合と比較して約1.5倍のヒトiPS細胞が得られることが明らかになったという。
次に、多層接着培養プレート上でヒトiPS細胞を増殖させた後、心筋細胞への分化誘導を行ったところ、強制的に酸素や二酸化炭素を通気した場合に、分化効率が安定し、より多くの心筋細胞が得られることが判明。また、作製した分化細胞を、無グルコース無グルタミン乳酸添加培養液によって、さらに培養することにより、腫瘍化の原因となる未分化幹細胞を除去し、安全性の高い心筋細胞を大量に作製することが可能となった。作製された心筋細胞の多くは心室筋細胞であり、それらの心筋細胞を凍結保存することにも成功したという。
今回の二次元大量培養技術の確立により、一度の培養で約10億個のヒトiPS細胞あるいは分化心筋細胞を作製することが可能となった。この発見は、ヒトiPS細胞から分化させた心筋細胞を用いて心臓再生医療を行う際に、安全性の高い心筋細胞を大量に得る上で極めて重要な技術であり、今後の心臓再生医療につながることが期待される、と研究グループは述べている。
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