原発性悪性脳腫瘍の中で最も頻度が高く、治療抵抗性も示す神経膠腫
名古屋大学は10月5日、GPIアンカー型膜タンパク質CD109を発現する血管周囲の腫瘍細胞が、神経膠腫の腫瘍の悪性化に大きく関与していることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大学大学院医学系研究科分子病理学の白木之浩助教、髙橋雅英教授らの研究グループによるもの。研究成果は、英・アイルランド病理学会誌「The Journal of Pathology」のオンライン版で公開されている。
画像はリリースより
神経膠腫は、原発性悪性脳腫瘍の中で最も頻度の高い腫瘍。手術や化学放射線療法などの治療に抵抗性を示し、進行するケースも稀ではない。腫瘍の進展や治療への抵抗性には、腫瘍内の血管周囲などに存在すると言われる脳腫瘍幹細胞が深く関わっていると考えられているが、その詳細なメカニズムに関してはよくわかっていない。
そこで、研究グループは、GPIアンカー型膜タンパク質「CD109」に注目。脳腫瘍幹細胞のメカニズムの一端を解明することを目的として研究を行った。
脳腫瘍幹細胞がCD109を高発現させ腫瘍を悪性化、治療抵抗性にも関与か
ヒトの神経膠腫内でのCD109の発現量を免疫組織化学染色で計測した結果、CD109高発現群は、低発現群と比較して予後不良であることが判明。また、免疫組織化学染色を詳細に検討したところ、とくに悪性度が高い神経膠腫で、CD109が血管周囲の腫瘍細胞に多く発現しているという結果が得られたという。
神経膠腫のマウスモデルおよびCD109ノックアウトマウスを用いた動物実験でも、ヒトの結果と同様の結果を確認。CD109の高発現によって神経膠腫によるマウスの死亡率が上昇し、より悪性度の高い腫瘍がマウスに形成された。さらに、血管周囲の腫瘍細胞にCD109が存在することも確認できたという。
このマウスモデルから脳腫瘍幹細胞を単離し、CD109の発現を計測すると、脳腫瘍幹細胞でCD109の高発現が認められ、血管周囲の腫瘍細胞が脳腫瘍幹細胞であることが示唆された。さらに、神経膠腫マウスモデルに対して、化学療法(テモゾロミドの投与)を行った結果、治療後にも関わらずCD109を高発現している血管周囲の腫瘍細胞が生き残っており、CD109を発現している細胞が化学療法に耐性のある細胞であることが示唆されたという。
これらの成果は、血管周囲の脳腫瘍幹細胞がCD109を高発現させることで腫瘍を悪性化させ、治療抵抗性にも深く関与していることを示しており、今後CD109を標的とした治療法の開発が期待される、と研究グループは述べている。
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