胎児に重篤な症状をもたらすことがある先天性トキソプラズマ症
サノフィ株式会社は10月5日、胎児における先天性トキソプラズマ症の発症抑制剤として開発中のスピラマイシンについて、厚生労働省に製造販売承認申請を行ったことを発表した。
トキソプラズマ症は、加熱不十分な食肉、飼い猫のトイレ掃除、園芸、砂場遊び、洗浄不十分な野菜や果物を介して、トキソプラズマ原虫が口から体内に入り、発症することがある。通常、健康成人または小児が感染する「後天性トキスプラズマ症」では、ほとんどの場合症状はないが、約1割に風邪のような症状が出現し、数週間で回復する。
しかし、妊娠中の女性がトキソプラズマに初感染した際に、トキソプラズマが胎盤を通過して胎児に感染する「先天性トキソプラズマ症」では、死産や流産だけでなく、胎児に水頭症、精神・運動機能障害や視力障害等、重篤な症状をもたらすことがある。胎児感染のリスクは母体が感染した時期で異なり、妊娠初期の感染では胎児感染率は低いものの症状は重度となる。妊娠経過とともに胎児感染率は増加し、妊娠末期では60~70%に達するが、症状は軽度となる。国内では、先天性トキソプラズマ症の発生数に関する疫学的データはないが、10,000出生あたり1.26人との推計値が報告されている。
日本産科婦人科学会より開発要望が出されオーファンドラッグに指定
スピラマイシンは、抗菌活性に加え、抗トキソプラズマ活性も有するマクロライド系抗生物質。1955年にフランスで承認されて以降、70か国以上で細菌感染症治療薬として承認、販売されている。また、妊娠中のトキソプラズマ症に対しても70か国以上で承認され、30年以上にわたり使用されている。
海外では、スピラマイシンが妊婦のトキソプラズマ症に対し、胎児への感染を減らし重症度を軽減することから、標準的な治療薬として推奨されている。しかし、国内では、現在トキソプラズマ症を適応症として承認されている薬剤はない。
このような背景から、日本産科婦人科学会よりスピライマイシンの開発要望が出され、厚生労働省の「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」で医療上の必要性が高い薬剤として評価された。2014年11月には、同社が開発要請を受け、2016年12月にオーファンドラッグとしての指定を受けていた。
▼関連リンク
・サノフィ株式会社 プレスリリース