うつ病患者と健常者では異なる扁桃体と海馬の脳活動と体積
情報通信研究機構(NICT)は10月3日、扁桃体と海馬の経済的な不平等(自分と相手の配分の差)に対する脳活動から、被験者の現在のうつ病傾向と1年後のうつ病傾向を予測できることを示したと発表した。この研究は、NICT脳情報通信融合研究センター(CiNet)の春野雅彦研究マネージャーらの研究グループによるもの。研究成果は、英科学雑誌「Nature Human Behaviour」にオンライン掲載された。
画像はリリースより
これまで国内外の疫学研究から、経済的不平等とうつ症状の因果関係が示唆されてきたが、その脳内メカニズムはよくわかっていなかった。研究グループは2010年に、感情を司る扁桃体が“不平等”に対して反応し、その脳活動が自分と他者とのお金の配分の違いを説明することを明らかにしていた。
また、扁桃体と海馬は、視床下部と共にストレス物質の放出に関与し、うつ病患者では、扁桃体と海馬の脳活動と体積が健常者とは異なることが知られている。このことから研究グループは、不平等に対する扁桃体と海馬の脳活動とうつ病傾向の変化が関係するという仮説を立て、実験を行った。
うつ病傾向を予測する機械学習技術を考案
研究グループは、94名の被験者にMRI装置の中で、相手から提案されるお金の配分を受け入れるか拒否するかを判断する「最終提案ゲーム」という課題を行ってもらい、この時の脳血流量をfMRI装置で観測。自分と相手の配分の差に対する感情の働きを調べることで、扁桃体と海馬の中の微小な場所が不平等に反応して作る脳活動パターンから予測をする機械学習技術を考案し、うつ病傾向の予測を試みたという。
その結果、現在のうつ病傾向と1年後のうつ病傾向の両方が予測可能であることが明らかになった。また、経済的な不平等とは関係のないほかの脳活動パターンや、被験者のさまざまな行動や社会経済的地位などからうつ病傾向を予測できるか検討した結果、無関係であることが判明したという。
今回考案した機械学習技術を更に発展させることで、長期のうつ病傾向の予測精度を向上させること、現在は一括してうつ病とされている症状群の脳情報処理の違いの理解が進むことなどが期待される、と研究グループは述べている。
▼関連リンク
・情報通信研究機構 プレスリリース