■講習単位化で底上げ狙う
第1回日本精神薬学会学術集会が23、24の両日、都内で開かれ、大会長講演で吉尾隆代表理事(東邦大学薬学部臨床薬学研究室教授)は、「薬剤師が医師と共に、主体的に薬物治療に関わる時代になってきた」と強調。精神科臨床における高い実践能力が求められるとして、実務経験を積んだ薬剤師を学会として認定していく考えを明らかにした。同学会が開催する講習会やワークショップへの参加を単位化し、一定基準に達した薬剤師を認定する構想。今後、新設した委員会で認定制度の詳細を検討していく予定だ。
吉尾氏は、国内の精神科医療と統合失調症の薬物治療の変遷を振り返りながら、「以前と違い、今は薬剤師が主体的に薬物治療に関わり、医師と一緒に治療していく時代。薬剤師は重要な立場にいる」との認識を示し、「これからの精神科薬剤師は、積極的に研究を行っていく必要があり、学会発表や研究論文発表が求められる」とした。
その上で、臨床現場で医師と協働し、主体的に薬物治療を行っていくためには、エビデンスを作っていく必要があると指摘。精神科臨床における高い実践能力が求められるとして、実務経験を積んだ薬剤師を学会として認定していく考えを明らかにした。
既に、精神科領域の認定制度には、日本病院薬剤師会の「精神科薬物療法認定薬剤師」があるが、吉尾氏は「臨床現場で活躍するためにはまだ少ない」と指摘。「実際に医療を考えて、薬物治療を行っていける薬剤師の認定にしたい」と述べ、臨床実務を重視した認定制度の構築に意欲を示した。
同学会では、認定制度構築のための委員会を新たに立ち上げた。今後、学会が主催する講習会やワークショップへの参加を単位化し、一定水準を満たした薬剤師を認定していく予定。精神科領域の処方箋を受け取る薬局薬剤師の参加も視野に入れ、より実践を意識した制度にしたい考え。将来的には、病院での施設研修も視野に入れているが、現時点では検討課題としている。
■退院患者の地域移行‐病院から薬局へ紹介状を
またシンポジウムでは、地域移行における薬剤師の役割を議論した。サワカミ薬局おいらせ青葉店(青森県)の黒沢雅広氏は、精神疾患患者の地域移行について、「地方では薬剤師の充足率が低く、薬剤師単独では地域移行を支えきれない部分が多い」と多職種連携の必要性を強調した上で、「退院してくる患者さんの情報が全くない状態で薬局に来られることが問題」と指摘した。
実際、処方内容から病名の推測は難しいことから、黒沢氏は、薬局で入手したい情報として、正確な病名と主訴、これまでの治療経過、服薬への意識、調剤上の留意点などを列挙。その上で、病院薬剤師から薬局の薬剤師に向けた「薬物療法情報提供書」(薬・薬紹介状)の作成を提案した。
黒沢氏は「退院時に紹介状を渡してもらえれば、正確な病名やどのような薬物療法を受けているか分かる」と述べ、「本当の意味での薬薬連携で情報共有を」と訴えた。
皆川英伸氏(清和病院薬剤科・秋田県)は、県病院薬剤師会の委員会事業の一環として、秋田県で精神障害者の自立や社会復帰を支援する「のぞみ地域活動支援センター」での活動を紹介した。
同会では、2010年から通所している障害者と家族にお薬相談会を行っている。30分ほど薬に関する勉強会を開催した後、個別の相談会を1時間ほど行ってきた。これまでの活動について、通所者と家族にアンケート調査を実施したところ、自分の病名を知っていると回答した人は85%に上ったが、医師から副作用に関する注意があったとの回答は半数にとどまった。
薬剤師と話す頻度を尋ねると、あまり話さないとの回答が55%にとどまったが、76.5%が話しやすいと感じていることも分かった。薬効や副作用以外に、困っていること、薬以外のことを聞きたいとの要望も多く、次回も相談会に参加したいと前向きな意見も聞かれた。
これらを踏まえ、皆川氏は「精神障害者が作業所という自分たちの生活の場所、社会とつながる場所に行くことに意味がある」とし、「お薬相談会を通じて、薬剤師は社会とつながる窓口になっているのではないか」と総括した。