がんを含むさまざまな疾患で機能異常が認められるmiRNA
徳島大学は9月25日、RNA結合タンパク質(RBP)ファミリーのひとつであるKH-type splicing regulatory protein(KHSRP)が、食道扁平上皮がんの進展に関わる特定のマイクロRNA(miRNA)の発現制御を介して悪性形質の獲得に深く関与することを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医歯薬学研究部人類遺伝学分野の井本逸勢教授、増田清士准教授らの研究グループによって行われた。
画像はリリースより
食道がんはリンパ節転移を起こしやすく、周囲の臓器に浸潤しやすいため、消化器がんの中で極めて予後が悪い。また、使用できる抗がん剤の種類や効果は限られており、大腸がんや乳がんなどに用いられる分子標的薬の開発が望まれている。
近年、ゲノムDNAから、タンパク質に翻訳されない多くのノンコーディングRNA(ncRNA)がつくられることがわかり、それらの機能が注目されている。ncRNAの中でも、miRNAは、がんを含むさまざまな疾患でその機能異常が認められることから、新たな治療標的や診断マーカーの候補として注目されている。しかし、なぜがん細胞で特定のmiRNAに機能異常が起こるのかはよくわかっていなかった。
食道がんの悪性度診断マーカーや分子標的候補として期待
研究グループは、食道がん手術組織を用いた解析から、これまでmiRNAの生合成に関与するとされていたKHSRPが、食道がんの発生と進展に伴って高発現するだけでなく、核内から細胞質に移行することを発見。また、細胞質でのKHSRP量が患者予後の悪化と明らかに関連することがわかったという。
さらに研究グループは、KHSRPによるがん促進機構の詳細を明らかにするために、KHSRP量を低下させた細胞内のmiRNA発現を調べた。その結果、がんの進展を促進するmiRNA群(miR-21、miR-130b、miR-301aなど)が減少していた。さらに、これらのmiRNA群は、がん転移に必要なステップの一部としてよく知られている上皮間葉転換(EMT)を抑制する遺伝子(BMP6、PDCD4、TIMP3など)の働きを抑え、がん細胞の増殖や腫瘍の形成を促進することがわかったという。実際に、細胞質でKHSRPが高発現している食道がん組織内では、これらのmiRNAの量が増加し、EMT抑制因子の量が減少していることが確認されている。
今回の研究により、KHSRPは、食道がんの悪性度の診断マーカーになりうるだけでなく、食道がんの進行を制御するmiRNA群を広範囲で調節するハブ分子として有用な分子標的候補であることが示された。KHSRPの細胞内での機能を制御することで、一度に多くのmiRNAの働きを変化させて効率的にがんの悪性形質をコントロールできる可能性があるという。
また、KHSRPは、子宮頸がん、肺がんなどの扁平上皮がんでも高発現していることから、KHSRPを標的とした治療法が開発できれば広範囲の扁平上皮がんに効果が期待される。今後、研究グループでは、KHSRPの細胞内機能を特異的に制御する分子を特定するとともに、これらをがん特異的に抑制する治療法の開発を進めていきたいとしている。
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・徳島大学 研究成果