■社会健康薬学で予防に注力
市立山口東京理科大は、1987年に設置された東京理科大学山口短期大学を前身とし、95年に4年制に改組。2014年に組織改革を進める同大学と薬学部設置を目指す山陽小野田市が公立大学法人化に合意した。公立化をきっかけに薬学部設置構想が浮上。政府が後押しする地方創生の政策も背景に、山口県初の薬学部設置にこぎ着けた。
山口県では例年、県内の大学進学者のうち、約200人が他県の薬学部に入学し、そのうち170人が県外に就職していた。薬剤師として県内に就職した学生は30人程度で、地元からも薬学部設置による人材流出の歯止めに期待が高まっている。
薬学部薬学科は、6年制の定員120人。質の高い薬剤師の養成を大きな目標に、薬剤師免許の取得を目指しつつ、研究も重視しており、4年次から全員が研究室に配属となる。最大の使命は地域への貢献で、カリキュラムの柱として、予防医学を通じて地域住民の健康に貢献する「社会健康薬学」、医薬品の創製による地元産業の活性化を目指す「創薬科学」、臨床現場でチーム医療や在宅医療に貢献する「医療・臨床薬学」を設定。同大学工学部や山口大学医学部と連携し、一体となった教育・研究を進めていきたい考えだ。
完成年度を迎える6年後には大学院を設置し、臨床現場で活躍する薬剤師の生涯教育を通じた学位取得を支援していく計画である。一方で、薬剤師の現場経験を生かした教育への支援を通じて、大学と県内の薬剤師が一体となった教育・研究体制を構築する構想も描く。武田氏は「県薬剤師会も全体で応援してくれており、地元の熱い思いに応えたい。薬学には地域に貢献できる部分がまだある。そこをもっと磨いて、地域と一体になって新しいジャンルの学問を創出していきたい」と意気込みを語る。
カリキュラムの特徴的な柱と位置づけるのが予防医学だ。「薬を使わない」という新しい視点で病気の予防医学を捉え、地域住民の健康に貢献するのが狙い。「サイエンスに基づく予防は、薬学が本来対象としなければならない得意分野。環境問題、栄養、運動、健康と予防につながる分野は薬剤師が中心になって研究していくべき」と武田氏。「社会健康薬学の土台となる教育の一貫として統計学を重要科目とし、充実した統計教育を行っていきたい」と話す。カリキュラムには、入門統計推計学をはじめ四つの必修科目を盛り込んでいる。
創薬も重視する。武田氏は「薬学は有機化学を中心に発展してきた学問であり、その基盤がないと薬を理解するという教育の根幹が弱くなる」と強調。「薬剤師免許の取得を前提としつつ、創薬に興味がある学生についても能力を伸ばしていきたい」と語る。
ただ、大きな課題の一つが学生のニーズである。薬剤師となった学生が県内に就職するかどうかが、地元関係者の最大の関心事でもある。薬学科では入試段階で30人の地域推薦枠を設定。山陽小野田市内から5人、山口県内から20人、指定校から5人の推薦枠を用意している。また、地域に関わるカリキュラムも設定し、地元への理解を深めてもらうよう工夫していく。
武田氏は「われわれも地域に貢献するモデルになるような薬学部を作らなければならないと責任を感じている」と強調。質の高い薬剤師を輩出することが第一の使命として、「志の高い人間性の優れた薬剤師を育てていきたいし、全教職員が責任を持って薬学人を育成していかなければならない」と気を引き締める。