2011年から任意接種開始も、ワクチンの影響に関するデータが不足
東京大学は9月14日、ロタウイルスワクチン導入後の日本国内における急性胃腸炎罹患児からの同ワクチンの検出・解析を目指す研究を実施し、その結果を発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の高梨さやか助教、金子明依修士学生(当時)、水口雅教授らが、日本大学の牛島廣治博士、国立感染症研究所の藤本嗣人博士、木村博一博士らと連携して行ったもの。研究成果は、「PLOS ONE」のオンライン版に掲載されている。
ロタウイルス胃腸炎は、乳幼児が多く罹患する疾患で、全世界で一年間に20万人以上(推計)の5歳未満児の死亡を引き起こす重要な感染症だ。 このロタウイルス胃腸炎に対して、RotarixとRotaTeqという2種類の経口弱毒生ワクチンが開発され、ともに高い臨床効果を得ている。このため世界保健機関は、2009年より全ての国にロタウイルスワクチンを国策として導入するよう勧告。しかし、日本では2011年より順次、任意接種として使用されているのが現状で、ワクチンの影響(益と害)に関するデータも不足している。
これらは生ワクチンであるため、便中にウイルスそのものが排泄される。諸外国では、急性胃腸炎罹患児からロタウイルスワクチン株が検出された事例や、排泄されたワクチンによりワクチン未接種児が急性胃腸炎を発症した水平感染の事例が報告されている。一方、日本においては、こうした現象についてこれまで調査されていなかった。
感染防御が成立する前に野生株に感染、急性胃腸炎を発症か
そこで研究グループは、日本における急性胃腸炎罹患児からの同ワクチンの検出・解析を目指す研究を実施。2012年7月~2015年6月の間に、全国6か所の共同研究施設の小児科外来にて、急性胃腸炎患児1,824人の臨床症状の聴取、便検体の採取を行った。
その結果、372人からロタウイルスが検出。そのうちワクチン株と野生株を峻別するリアルタイム RT-PCR 法にて、6人(1.6%)からRotarix株が検出され、RotaTeq株は検出されなかったという。これは日本で初めて示された検出率であり、過去の米国での検討より低い値だった。この6人は便検体を採取する2~14日前にRotarixワクチン接種を受けており、今回の胃腸炎症状へのワクチン株の関与は明らかではなかった。また、次世代シークエンスを用いて詳細な遺伝子解析を行い、リアソータントの発生ではなく、ワクチン接種直後で感染防御が成立する前に野生株に感染して急性胃腸炎を発症したと考えられる興味深い例を見出したという。
今回の研究で得られた結果は、国として定期接種化を検討する際の重要な資料となると考えられる。今後も、重症例を含めた継続的検討が必要だ、と研究グループは述べている。
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・東京大学大学院 医学系研究科・医学部 プレスリリース