既存の抗ヘルペス剤の効果が限定されているヘルペス脳炎
東京大学医科学研究所は9月12日、単純ヘルペスウイルスのウイルスキナーゼ「UL13」が、細胞傷害性T細胞応答を抑制することによって、ヘルペス脳炎の発症に寄与することを明らかにしたと発表した。この研究は、同研究所感染・免疫部門ウイルス病態制御分野 感染症国際研究センターアジア感染症研究拠点の川口寧教授、小栁直人特任研究員らの研究グループによるもの。研究成果は「Journal of Clinical Investigation」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
単純ヘルペスウイルス(HSV)感染で引き起こされるヘルペス脳炎は、病態が進行すると、既存の抗ウイルス剤でウイルス増殖を阻害しても脳炎の進行を阻止できないことから、新たな治療法の創出が求められている。また、HSVは多くの病態において、潜伏と再発を繰り返す。1度感染したら終生再発症しない他の多くのウイルスとは異なり、HSVはウイルス感染の生体防御反応である免疫応答から回避するさまざまな機構を獲得していることが考えられている。
細胞障害性T細胞(CTL)は、ウイルス感染細胞を除去できることから、ウイルス感染に対する非常に重要な免疫応答を担う。これまで、HSVのCTL回避機構に関して多くの研究が行われてきたが、病原性を司るCTL回避機構は不明だった。
UL13の阻害やCTL応答の人為的亢進でマウスの脳炎を顕著に抑制
今回、研究グループは、ヘルペス脳炎の発症に関わるHSVタンパク質として、ウイルスキナーゼUL13を同定。また、UL13が、CTLを誘引するケモカインCXCL9の発現を抑制し、脳感染部位へのCTL浸潤を低下させることによって、効率的な脳炎発症に寄与することを発見した。さらに、UL13の活性を阻害、または、感染マウスにCXCL9を投与することで脳感染部位へのCTL浸潤を亢進させることによって、脳炎を顕著に抑制できることを実証したという。
これらの研究成果は、病原性を司るHSVのCTL回避機構を世界で初めて明らかにしたもの。今後、UL13およびCTL応答を標的としたヘルペス脳炎の新しい治療法につながることが期待される、と研究グループは述べている。
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