精神疾患の病態生理との相互関与が示唆される肥満
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は9月7日、大うつ病性障害患者における体格指数(BMI)が30以上の肥満が、認知機能低下と脳構造変化に関連することを初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同センター神経研究所疾病研究第三部の功刀浩部長および秀瀬真輔医師らのグループによるもの。研究成果は、科学誌「Journal of Affective Disorders」にオンラインで掲載された。
画像はリリースより
大うつ病性障害は、気分の落ち込みや興味・関心の低下といった諸症状に加えて、記憶、学習、問題解決能力、巧緻運動などの認知機能が低下する。家庭や職場で発症前にはできていた活動ができなくなってしまう場合があり、臨床的に重要な問題となることが少なくない。
一方、肥満は、BMIが30以上と過剰に上昇した状態を指し、精神疾患の病態生理との相互関与が示唆されている。とくに、大うつ病性障害とは、慢性炎症、代謝系異常、視床下部-下垂体-副腎系の機能異常など共通の病態が指摘されており、脳形態のなかでは海馬領域の萎縮と認知機能との関連が注目されていた。しかし、これまでの研究は、高齢患者や健常者を対象として、連続変数としてのBMIと認知機能や脳形態の線形的な相関に関して解析したものであり、BMIが30以上の肥満と大うつ病性障害との関連は調査されていなかった。
肥満患者は脳の皮質体積が縮小、神経ネットワークも低下
研究グループは、65歳未満の大うつ病性障害患者307名と健常者294名を対象に、認知機能および灰白質・白質構造に肥満が関与する可能性を検討した。その結果、BMIが30以上の肥満は、大うつ病性障害患者における作業記憶、実行機能、巧緻運動速度などの認知機能の低下と関連していることが判明。健常者では、BMIが30以上の肥満だけが認知機能の低下を示すというより、BMIが体重不足、正常体重、過体重、肥満と高くなるにつれて認知機能が低下する傾向がみられたとのこと。
また、MRI脳画像を用いた検討では、BMIが30以上の肥満患者は、BMIが30未満の患者と比較して脳の一部の皮質体積が有意に縮小しており、神経ネットワークの指標も低下していることがわかったという。
今回の研究成果は、体重コントロールが大うつ病性障害患者の認知機能や脳形態にプラスの効果をもたらす可能性を示唆するものだとし、今後は、縦断的研究や介入研究を行い、減量が大うつ病性障害の認知機能改善に繋がるかについて検討していく必要がある、と研究グループは述べている。
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・国立精神・神経医療研究センター プレスリリース