■「症例集積期待できない」
新薬開発の効率化を目的とした治験ネットワークについて、「あたかも一つの医療機関」として機能し、症例集積性の向上や手続きの効率化が期待されていたものの、実際に製薬企業が治験ネットワークを活用した試験は約2割にとどまることが、日本製薬工業協会医薬品評価委員会の調査で明らかになった。医療機関の受託実績もわずかな増加にとどまっており、治験ネットワークが伸び悩んでいる実態が浮かび上がった。治験を依頼する企業が治験ネットワークの活用を検討しなかった最大の理由に、症例集積性が期待できないこと、手続きが煩雑であることが挙げられ、魅力なしと判断していた。
医薬品評価委員会は、「このままの状態では、依頼者が治験ネットワークを前向きに活用することは決してない」と厳しく指摘。主体的な施策の改善がなければ、「大部分の治験ネットワークの活動は困難になる」と警鐘を鳴らした。
調査は、製薬協加盟73社を対象に、2016年10~11月にかけてウェブアンケートで行ったもの。2015年度にデータベースロックした試験で回答のあった153試験について、治験ネットワークの活用の有無や活用しなかった理由などについて尋ね、12年度に実施した調査と比較検討した。
その結果では、治験ネットワークを活用した試験は21.6%と約2割にとどまり、治験ネットワークを活用しなかった試験が78.4%と大多数を占めた。
試験の対象疾患領域は、癌が28.8%と最も多く、次いで内分泌・代謝系疾患の12.4%となったが、そのうち治験ネットワークを活用した疾患領域は、循環器系疾患と精神疾患が共に24.2%と最も多く、治験ネットワークを活用した試験の約半数を占めた。活用した治験ネットワークは、登録医療機関が二つ以上の都道府県にまたがる「広域型」がほとんどとなっていた。
治験ネットワークを活用しなかった試験で、治験ネットワークの活用を検討したものは10.0%と1割に過ぎず、その理由として「症例集積促進が期待できない」との回答が最も多く、次いで「治験手続きが煩雑である」となった。製薬企業は、治験ネットワークのメリットである症例集積性の向上と手続きの効率化を望んでいるものの、実際にはそれが期待できないと判断し、治験ネットワークを活用していない実態が浮かび上がった。
一方、57の治験ネットワークを対象とした調査のうち回答のあった35の治験ネットワークから受託の状況を見ると、受託経験のある治験ネットワークは77.1%と12年度の63.2%に比べてやや増加していたが、1治験ネットワーク当たりの契約プロトコール数、症例集積性の向上策でカルテスクリーニングによる候補被験者の明確化などの実施率は減少しており、治験ネットワークの受託実績に大きな変化は見られないことが分かった。
同委員会は、「症例集積性の向上策の実施には、マンパワー不足、システム統一や導入などへの障壁が課題になっている」と分析。症例集積性の向上へ主体的に取り組む治験ネットワークが少なくなっていることに問題意識を示した。
これらの結果を踏まえ、同委員会は、治験依頼者が治験ネットワークの活用を進めるためには、「期待に合致する実績を残すことで選ばれる存在になる必要がある」と提言。症例集積性の向上や手続きの効率化に関する施策を実施しない治験ネットワークに対し、「今後も受託の機会は見込めない」と指摘した。
また、施策を実施している治験ネットワークに対しても「現状維持だけでは受託増加を見込むことは困難」と厳しい見方を示し、「治験の受託を待つだけでなく、積極的に情報発信して依頼者の期待に合致する具体策や実績をアピールしていくことで受託につなげることが必要」と受け身からの脱却を提言した。