環境要因と精神疾患をつなぐ分子や生物学的メカニズムを研究
理化学研究所は9月5日、脳発達期の脂肪酸の摂取不良が統合失調症発症リスクに関与する可能性があることを示す研究結果を発表した。この研究は、理研脳科学総合研究センター分子精神科学研究チームの吉川武男チームリーダー、前川素子研究員らの共同研究グループによるもの。研究成果は、米オンライン科学雑誌「Translational Psychiatry」に掲載された。
画像はリリースより
統合失調症は主に思春期以降に発症するが、発症しやすさには遺伝要因に加えて環境要因が関わる。胎児期に低栄養状態を経験すると、成人後に統合失調症が生じやすくなることが知られているが、その分子メカニズムを明らかにした報告はこれまでなかった。
核内受容体を標的とした統合失調症治療薬の開発に期待
研究グループは、統合失調症の臨床的・分子遺伝学的知見から、多価不飽和脂肪酸の欠乏がとくに重要であると考え、マウスの脳発達期に多価不飽和脂肪酸(特にアラキドン酸とドコサヘキサエン酸)の摂取制限を行い、成長後にどのような異常が現れるか、調査した。
その結果、アラキドン酸/ドコサヘキサエン酸欠乏食を投与したマウスでは、統合失調症の前駆状態に類似する行動変化、脳内神経活動の変化、大脳皮質前頭前野におけるオリゴデンドロサイトとγ-アミノ酪酸(GABA)関連遺伝子群の発現低下、それら関連遺伝子群の上流制御遺伝子として同定したRxra、Pparaなどの核内受容体遺伝子の発現低下と、遺伝子のプロモーター領域のDNAメチル化状態の亢進が生じていることを見出したという。
これらは、脳発達期の不飽和脂肪酸欠乏が将来の精神疾患発症リスク増大につながる可能性や、そのメカニズムとして核内受容体遺伝子のエピジェネティック変化が関与する可能性を示唆している。これらの知見から、核内受容体を標的とした統合失調症治療薬や予防薬の開発が期待される。
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