複数の大規模コホート研究で検証されているp-tauの有用性
日本医療研究開発機構(AMED)は9月5日、アルツハイマー病患者の脳に特異的に蓄積する病的タンパク質「リン酸化タウタンパク(p-tau)」を、ヒトの血液中で特異的に定量できる超高感度定量系を世界で初めて開発し、それによりアルツハイマー病の診断ができると発表した。この研究は、京都府立医科大学分子脳病態解析学の徳田隆彦教授、京都府立医科大学在宅チーム医療推進学の建部陽嗣特任助教らの研究グループによるもの。研究成果は「Molecular Neurodegeneration」に掲載されている。
画像はリリースより
過去30年にわたる国際的なアルツハイマー病研究により、アルツハイマー病診断のコア・バイオマーカーと呼ばれる髄液アミロイドβタンパク(Aβ42)、総タウタンパク(t-tau)、リン酸化タウタンパク(p-tau)の有用性が確立されており、その有用性は複数の大規模コホート研究により十分に検証されている。
なかでもp-tauは、アルツハイマー病患者脳に特異的に蓄積する病的タンパク質で、認知症の発症が近づいてきた時期から脳に蓄積し始め、その大脳内での広がりが認知症の発症とダイレクトに関連していることがわかっている。p-tauは髄液中では定量が可能だが、血液中には極微量しか存在しないために、これまではその定量ができなかったという。
ELISA法の1,000倍の感度でp-tauを測定
研究グループは、近年実用化された超高感度デジタルアッセイ技術であるSimoa(Single molecular array;米Quanterix社)を導入し、2016年1月から血液中でp-tauを検出・定量できるSimoaによるp-tau測定システムの開発に着手。多くの抗p-tau抗体・検出試薬の組み合わせを順次検討した結果、今回、捕捉抗体・検出抗体・検出試薬・ヘルパービーズの組み合わせを適正化することにより、実際のヒトの血液中でp-tauを、従来検出に用いられていたELISA法の1,000倍の感度で検出できる定量システムを世界で初めて開発することに成功した。
研究グループは、この新規に開発したp-tau定量システムを用いて、実際の患者血液中のp-tauを測定。その結果、アルツハイマー病患者およびダウン症候群患者では、正常対照者と比較し、血液中のp-tauが有意に増加しており、アルツハイマー病の診断に有用であることが判明したという。さらに、年齢別のダウン症候群患者の検討で、血液p-tauが患者脳に出現する神経原線維変化を反映する可能性が高いことが明らかになった。
研究グループは今後、今回開発した血液p-tau定量系の有用性を、より大規模な患者コホートで、横断的・縦断的に採取した多数の血液検体で検証する必要があるとしている。また、大規模試験でこの血液p-tau定量系の有用性が検証されれば、それによってアルツハイマー病の診断を、客観的・効率的に、かつ、これまでとは比較にならないくらい非侵襲的かつ安価に行うことが可能だ、と述べている。
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・日本医療研究開発機構 プレスリリース