根本的治療法はないダウン症
京都大学は9月5日、ダウン症(21トリソミー)で神経細胞数の増加を抑えている遺伝子を特定し、その機能を妨げることで神経細胞を正常に増やすことができる化合物「アルジャーノン」(ALGERNON; altered generation of neuron)を発見したと発表した。この研究は、同大医学研究科の小林亜希子助教、萩原正敏教授らの研究グループによるもの。研究成果は「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載されている。
画像はリリースより
約1,000人に1人の確率で発生し、最も多い染色体異常といわれているダウン症は、知的障害や先天性心疾患などさまざまな合併症を伴う。21番染色体上に存在する遺伝子のひとつ「DYRK1A(Dual-specificity tyrosine phosphorylation-regulated kinase 1A)」は、ダウン症で過剰に発現していることがわかっている。また、ダウン症モデルマウスやダウン症iPS細胞では神経幹細胞があまり増えず、神経幹細胞により供給される神経細胞数の低下が脳構造の発達不全の原因のひとつであると考えられている。現在、出生前診断は可能だが、根本的な治療法はない。
ダウン症マウス仔の大脳皮質の形成異常・学習行動を改善
研究グループは、ダウン症で低下している神経幹細胞の増殖を促進する化合物を探索し、候補化合物アルジャーノンを取得。アルジャーノンは、DYRK1Aの働きを抑制する活性をもち、ダウン症iPS細胞に加えると神経幹細胞が正常に増えるようになった。また、アルジャーノンをマウスに投与すると、神経幹細胞の増殖を促すことが確認されたという。さらに、妊娠マウスにアルジャーノンを投与した結果、ダウン症マウス仔の大脳皮質の形成異常および低下した学習行動が改善された。この結果は、胎児期にアルジャーノンを投薬して神経幹細胞の増殖を促すことで、神経幹細胞の増殖低下により引き起こされる脳構造の異常を改善できる可能性を示したものだという。
研究グループは、「21番染色体上のどの遺伝子がダウン症の症状に寄与する過剰な遺伝子かが特定できれば、遺伝子産物のみをブロックする薬剤開発が可能となると考えられる」と述べている。また、今回発見した化合物アルジャーノンは、神経幹細胞の増殖を促進するものであり、神経幹細胞は発生期だけでなく成体にも存在することから、今後は神経新生が関与していることが示唆されている学習・認知分野やうつ症状、神経変性疾患、脊椎損傷など他の疾患への適用が期待されるとしている。
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・京都大学 研究成果